話をしよう
 


「証拠がない。信じられないな」



逆上をした状態で境は桃紫と寂を睨んだ。振り払うように寂を離すと、固い壁を蹴りあげた。弱りきった様子で漆は床に座り込み、境に「その通りだよ、信じることはできない」と同意してみせた。LEの中で最も身近にいた二人が裏切り者だというのはあまりにも信じがたい。

そんなLEにみわはそっとため息をついた。それは呆れた意味を込めている。田中はみわを睨んでその行為を否定する。



「お待たせー! ……あれ? ど、どうしたの?」



司令室のドアを勢いよく開けて入ってきた葉蝶は中の重たい空気を察して動揺を見せた。続いて入る夏満と独利も境と漆の不安定な様子を心配した。
葉蝶は力弱く項垂れる漆の元に駆け寄り、彼の背中を擦りながら大丈夫かと、心配する。



「体調が悪いの? 皆、一体……」

「葉蝶、そこに、縛られている寄生者がいる。田中、椿。これはどういうことだ?」



夏満はみわから目を離さない。田中は「いやー、それが」と困り果てたように頭を掻いた。田中が説明下手なのを知っていて、椿は彼がしゃべりだす前にどうしてみわがいて、縛られていて、全員が放送に呼ばれ作戦が一旦停止になったのか話し出した。



「俺と、田中先輩が任務を完遂した段階であの寄生者が現れました。名前はみわだそうです。俺たちに『話』をするのが目的だそうです。チェックはしましたが武器は持っていない様子。しかし念のために縛らせてもらいました。彼の希望はLE全員に自分の話を聞いてもらうことだそうで。武器を持たず単身で縛られてまでいる誠意を受け止めて先輩方を呼ばせていただきました。勝手なことをして申し訳ありません。しかしここに来るまで寄生者の兵には出会わなかったでしょう。聞く価値はあるのでは?」



椿は頭を下げながらハキハキと葉蝶、そして夏満に報告した。
葉蝶は困った素振りを見せ、みわに近寄ると見定めるようにじっと頭の先から爪先までみる。



「第一印象が大切って分かる? 心が読めない私たち人間はね、第一印象で初対面を判断してしまうの」

「う、うん……」



葉蝶はみわに、目線を合わせて座る。葉蝶のすぐ後ろには杖のカツカツとした音をたてて夏満が立っていた。隊長の葉蝶よりも圧倒的な威圧感を放っている。他のLEメンバーも静かにみわを見ていることから、みわは重量のあるプレッシャーを感じていた。



「……私、まだ信じられないんだけど、あなた男なの?」



椿がみわを「彼」と呼んだことが葉蝶に引っ掛かったのだろう。みわは金髪のサラサラした綺麗な髪をツインテールやや後方にまとめとている。スカートを履いており、すらりと伸びた足や大きな目は男とは程遠い。声は中性的だ。



「な……」

「性別を偽るって、騙された気分なの。あんまりあなたを信用できないな。寄生者ってこともあるしさ」

「……ッ」



葉蝶は腰から提げている剣の鞘から刀身を引き抜いた。そしてみわの首にあてがう。みわは対寄生者部隊に力が通用しないことに歯を噛み締めた。



「私たちに嘘は見抜けない。だからあなたの話に偽りは避けてほしい。いい?」

「話、聞いてもらえないと思った……」

「ここにいない響くんと純ちゃんのこと聞きたいし」



境はみわに敵意を向けていた。漆も帽子のつばと髪の隙間から弱々しくみわを見ていた。