裏切り者
 

「おいおい、なんで呼び出しなんて一方的なモンされなきゃならねーんだよ。しかも作戦中止だと? きちんと説明して……」

「わ、誰、あのお姉さん。寄生者だよね?」



司令室に到着するなり、境は田中に詰め寄った。放送を実行した椿にもガンを飛ばして睨んでいる。境に着いてくるように続いて入室する漆は部屋の中央で縛られているみわをみて驚く。
詰め寄られた田中は境のご機嫌取りに必死だったか、あまりにヘタクソだった。境と漆よりも早く司令室に到着していた桃紫と寂に救援を求めていたが成功はしなかった。



「実は田中たちが裏切り者なのか?」

「それはないですよ、境先輩。裏切り者だったならこんな寄生者を縛る理由がないじゃないですか」

「そう見せかけておいて……、って可能性は?」

「疑いすぎですよ漆先輩。田中先輩なら煮るなり焼くなり好きにしても構いませんが、俺まで捲き込まないでくたさいって」



やや面倒くさそうに椿はあくまでも自分の身を守るために境と漆をおちつかせた。
咳をする寂の背中を擦りながら桃紫は裏切り者の正体を披露する。



「あらぁ? あなたたちは知らないのかしら。裏切り者の正体」

「どういう意味だ?」

「響と純よ」

「ゲ、ゲホッ。さっきシステム管理室で監視カメラを通じて見たが、二人の姿は見あたらなかった。当然裏口にはいない。ゴホゴホ」

「あらあら寂、無理をしないで。……?」



まさに放心状態だった。境は目を丸くしており、漆は音をたてて刀を手からはなした。境はすぐに我にかえって寂の胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。あまりに瞬間的なことで近くにいた桃紫は寂のうめき声が聞こえるまで気が付かなかった。寂の足は床に着かず宙にぶら下がっていた。もともと体が頑丈というわけでもない寂は息をするのが困難。
裏切り者の正体を初めて知った四人の中で一番はじめに理性を取り戻した田中は急いで寂を境の手から救った。



「センパイ、落ち着いて!」

「落ち着いてられるかクソッタレ! 響が裏切り者だと!? あいつは私の片割れだぞ!? 同じ人生を歩んで、同じ血が流れていて……!!」

「でも違うことを感じて生きてきた」



手足を縛られた状態でいままで静かに成り行きを見ていたみわは冷たい声で告げた。境は憤怒の形相でみわに殺気を込めて睨んだ。
口も開けない漆はとても小さな声で、言葉を漏らしていた。まるで頭で考えていることが不意に口から出されている様だった。



「……僕も、純も同じくまだ物心がついていないときに両親に売られた。……似ている生き方だったのに、純は、僕よりずっと優しくて……、自身を売った両親をゆるしてた。……ぼ、僕は、憎んでいたのに……。違うんだ。わかっていたつもりだったんだ」



最も信頼していた人物に裏切られたという事実が、境と漆に理性を失わせていた。