疑心暗鬼
 


「葉蝶は中将のそれを聞いて、どう解釈したんだ?」

「え? ああ、んー」



するりと滑るように葉蝶は砦を視界に移した。そして思い出すような声音でゆっくりと自己解釈を語った。



「あれは裏切り者が誰か、を教えるというより私たちを引きずり込もうとしてるんじゃないかなって思うの。私に話したってことはLEってことでもある。元帥の話をしたってことは元帥が関係あるってことでしょ? 関係ない人のことを話すとは思えないもん。中将のつながっていないような会話を箇条にまとめるなら、『元帥の価値観』『戦争の意味』それってつまり『忠誠心への疑い』じゃないかなって。もしかしたらそれが裏切者の動機なのかもね」

「葉蝶にしてはいい線だな。そこから導き出せる答えは?」

「私にしては……!? う、ううん、そこまでは……ちょっと」

「ただの葉蝶か」

「ちょっと夏満!?」



葉蝶が拗ねた表情をしたが夏満はしらんぷり。独利は溜息をついていた。期待して損した、と。



「間接的に俺の身にもかかわるから仕方なく教えてやる。中将が言った意味を。もしこれが本当なら、これはこの戦争の今後がかかっていることになる。重大なことだ」

「う、うん……」

「葉蝶の言ったことはだいたいポイントを突いている。そこに一つ加えるとするなら『遊び』だ」



溜息をついていた独利は葉蝶にもわかるよう意識しながら話をした。その間、夏満は砦のほうを見ている。



「『元帥の価値観』はそのまま『遊び』につながり、そして『戦争の理由』にもつながる。どういうことかわかるか? 逆に考えてみろ」

「逆に言えば『戦争の理由』は『遊び』に繋がって、『元帥の価値観』に……。っ、ね、ねえ、元帥が人間側の総大将になったのっていつから!?」

「戦争が開戦してすこし経ったあとだ」

「もしかして戦争の理由って、人間と寄生者の対立とかじゃなくて元帥の遊びってこと!? そうなあると価値観が違うっていうのにもつながる……?」



そんなことありあえない、冗談だ、と葉蝶が疑う。それに独利は頷いて同意を見せた。証拠なんてない、中将のことばに確信は持てない。もしそうだとするならば、いままで自分たちが築いてきたものは崩されてしまうことになる。人間としてのいままでの知識が。戦争を隣に生きる葉蝶たちにとっては日常がすべて打ち壊されることにもなる。そんなことはありえない、と疑った。いままで培った知識が偽物の知識を基盤にしていることなど……。



「俺だってそう思う……。証拠もなにもないんだから信じられない」

「でも、どうして中将が葉蝶にそんなことを伝えたのか動機が分からない」

「も、もしかしたら……」