元帥と中将
 


戦場大陸の最北端に人間側の本拠地が鎮座している。長細いビルのような外見だが、その側面には大砲の砲がずらりと並び、遠くを見据えていた。その最上階に元帥と中将の二人だけが集まっていた。
シワがいくつも彫られた顔に白髪の混じった髪。しかし鍛えぬかれたままの肉体と鋭い眼光が威厳を放つ元帥。いまや戦争を牛耳る人間の一人である。

もともと元帥は北半球の大国家にいた軍の最高指揮官であったが、この戦争をきっかけに人間側の最高指揮官まで上り詰めた。現在、寄生者の多くは彼を殺し、戦争を終わらせようと考える者が大半を占めている。



「寄生者側の兵士が少ないと聞く。なぜだ?」

「対寄生者部隊の増員と、強化が由来しているかと思われます」



元帥の問いに中将は詰まることなく答えた。中将はいつでも微笑んでおり、それは今も同じであった。



「ならば対寄生者部隊の中から戦力にならん部隊を上から順に挙げろ」

「対寄生者部隊の中で、ですか」

「そうだ。これらの一個師団はお前の担当だろう?」

「では順に挙げていきます。……第6部隊チェック、第9部隊黒猫、第15部隊桜ノ蕾、第18部隊cruel……」



元帥に言われた通り、中将は順にその部隊の名前をあげていった。まるで歌でも聞くように目をとじていた元帥はやがて目を開ける。中将は気に掛けることもなく続行していた。半分に差し掛かったころ、元帥は片手を挙げて中将の言葉を中断させる。そして言った。



「そやつら、全員にもう軍の関係者になる必要はないと通告しろ。用済みだ。対寄生者部隊がいるせいで楽に戦争に勝ってもつまらん」

「了解です」



中将はまるで機械のように元帥の命令に従う。
各部隊に通告を出すため、部屋から出て行った。中将が重い扉を閉めたとき、元帥は力の限り笑った。

彼は人間と寄生者の戦争をただのゲームとしか思っていなかったのだ。たとえるなら、チェスや将棋と同じゲーム。自分が軍の最高指揮官であるのがまるで神であるかのように心地よく、皆がなんでも言うことをきくこの現状に満足していた。すべては彼の思惑通りだ。寄生者と戦争をすることが。

――そもそも寄生者が存在することが……。


元帥の部屋から出て、中将は薄く笑みを浮かべていた。長い廊下を進み、真っ先に自分の部屋へ向かう。やるべきことがある。
誰もいない部屋に着き、落ち着いた動作で柔らかい椅子に座ると通信機器を用意した。そして連絡をとる。



「任務開始」



中将の合図で、始まった。
人間側の戦闘部隊と、寄生者と、裏切り者の最後の戦争だ。