田中と椿のペア
 


田中と椿の侵入口は砦から数十メートルも離れた場所にあった。隠密行動を得意とする二人に、砦への入り口をそこにするには迷いがなかった。その砦は五年前にできたものだ。五年前から建設された砦には地下道が存在することをすでに田中たちは調べている。最も気付かれず司令室へ行くには地下道を通るのがちょうどよかった。



「オレっち、いつも思ってるんだけど……椿さあ、武器変えたらどうかなーっ?」



陽気に笑いを含みながら田中は後ろにいる椿に話し掛けた。田中と私語や雑談をする気が一切なかった椿は田中を見て、返事をするまでが遅かった。



「田中先輩、声が響くので黙って進んでください」

「やーん、照れ屋さんだなあーっ」

「喧嘩を売ってるのなら後にしてください。うざい」

「わーん。悲しいー。でもハルバートは隠密行動には似合わない武器だと思うよ。オレっちみたいに暗器にすればいいのにー」

「ハルバートが使いやすいんです。それに、隠密行動が自分の得意分野だと気づく前に手がハルバートに合ってしまったんですよ」

「でも今は柄のところを折り畳んで斧みたいにしてるじゃない」

「間合いがとれないんで」

「我が儘だなあ」



明るい声音で田中は楽しそうにした。椿は会話が終わるとまた無言に戻ってしまう。鼻まで隠すマスクの下で田中は口を尖らせて拗ねた。
暇で、また田中が椿に話し掛けるが彼は返事をしない。田中はクナイを一本取り出して手遊びを始める。しかし田中が手遊びを開始してあまり時間も経たないうちに地下道は終わりを迎えた。



「ちぇっ」

「ここは恐らく会議室あたりになりますね。ここの真っ直ぐ上に行った二階が司令室です」

「そこで偉そうにしてる奴をぶっ殺せばいいんだよねえ? じゃあいつも通りにいこっか」

「了解です」



椿は返事をしながら折り畳んでいたハルバートの柄を伸ばした。クルクルと回して調子を確かめると、上に開く扉に手をかけた。田中の合図を待つ。
田中は両手にクナイを持ったあと、手遊びをしていた手を止めた。



「健闘を祈るよ、十番さん」



それが合図だった。勢いよく椿は飛び出し、その次の瞬間にはボチャボチャと血が床に落ちる音がした。「クリア」という椿の落ち着いた声がして、田中が地下から出てくる。



「椿、地図は覚えてるよね?」

「この部屋を出て左に階段があります。それをのぼれば司令室になります」



頬についた返り血を袖で拭きながら椿は冷淡に言った。