桃紫と寂のペア
 



桃紫と寂は、砦の内部をスムーズに進んで行った。あちらこちらに配置されている寄生者は少なく、人員不足という内情がうかがえる。



「猫に小判ね。こんなに素晴らしい砦を寄生者はまったく使いこなせていないわぁ。ここは藁の小屋じゃないのよ……」

「出入り口に赤外線センサーだとかあるのにな。ゴホッ。寄生者はアナログだというが、ここまでとはな……。機械類が一切作動していない。げほ。まさに豚に真珠だ」



呆れながらも好都合だと二人は口を緩める。桃紫が目の前に立ち塞がる寄生者を殺していく。桃紫と寂は無事にシステム管理室に到着した。
システム管理室は薄暗く、蛍光灯は割れていて部屋全体を視界に納めることはできなかった。しかし中央にあるコンピューターだけは画面が発光していた。薄暗く光るそれに寂が近付く。

デジタルのことは桃紫より寂のほうが詳しい。桃紫は周囲の警戒をして、寂は中央にあるコンピューターの前に座った。



「ごほ、ごほっ。ああ、これだ」

「どのくらいで砦のコンピューターを制御できるの?」

「まだかかる」

「手伝えることはあるかしらぁ」

「僕が心置きなくこっちに集中できるように見張りを頼む」

「ええ、任せておいて」



暫く、寂がキーボードを叩く音だけが狭い部屋に響いた。桃紫は拳銃を両手に、警戒を怠らない。
不意に桃紫は口を開いた。



「ねえ、裏切り者のこと……寂はどう思う?」

「……さあな。デマの可能性も考えてる。桃紫は心当たりがあるのか?」

「気になるだけよ。響が」

「ほお。僕はてっきり独利かと思ってたけどな」

「独利が裏切り者ということも否定できないけど、彼が裏切り者ならあかるさま過ぎるわ」

「なぜ響が?」

「響だけじゃないわ。純も私は疑ってる」

「え、あの純まで?」

「純は小心者でいつも誰かの影に隠れているけれど、信じたものを裏切らない頑固なところもあるわ」

「信じたものを……」

「度々、彼らの仕草が気になるのよぉ。でも確信を得たのは前回の任務ね。寄生者と戦ったとき、まるでパフォーマンスをしている様だったわぁ」

「……ふむ」



キーボードの手が止まった。
桃紫は首を傾げて寂を見る。寂は眼鏡を持ち上げながらくすくすと笑った。



「?」

「桃紫、君は主観的過ぎる。もし僕が裏切り者で、この密室のなか桃紫を暗殺したらどうするつもりだっ……ゲホッ! ゴホゴホッ」

「あーあ、格好つけるからぁ……」

「……。桃紫は主観的過ぎるんだ」

「寂なら返り討ちにできる自信があるわ」

「返り討ちにされる自信がある……」

「でしょう?」

「しかし僕も桃紫に賛成だ。証拠を見つけてしまった。正面を見ろ。そこにスクリーンがある」



寂はマウスを動かした。桃紫は寂の顔が向いている方向を同じように見た。そこにはとある映像が映し出されていた。