響と純のペア
 

響と双子の姉である境は、まるで鏡のように正反対した部分がある。そして同一人物であるようにまったく同じである部分がある。それは男と女という性別の面から、同じ人生を歩んできたということまで。二人は父親の男手ひとつで育てられていた。そんな父も戦争に巻き込まれて死んでしまった。授業料や生活費など、金銭を一切払わない国が運営する養成学校に通っている間の出来事だった。
そんな、昔話を響は思い出していた。そのあと境が誰彼かまわず殺し続けたこと。日常のなんとでもない会話や出来事。LEに配属が決定した時のことを。そんな記憶、思い出をふと、風をきりながら思い出していた。
「さようなら」を告げるのも自分たちのことを告げるのも恐れた響はまるで逃げているようだ、とも思った。

境や漆が裏切者が誰かと気にしていたことを純は思い出していた。そして次に、漆との思い出ばかりが頭のなかをよぎって行った。
純と漆は生まれて数年、物心がつくか否かという幼い時期に家族のもとから離れて養成学校に通っていた。養成学校に通い、人見知りでいつも一人でいた内気な純はいじめの対象になっていた。その時、純に手を差し伸べたのが漆だった。6歳の純に対し漆はまだ3歳という幼さで、状況がよく読めないまま純に手を差し伸べたのだろうが純はそれが救いのように見えた。毎日のように罵倒され、満足に食事も口にできない日々からまだまだ幼い漆が救い出してくれたように思えた。純にとっては特別な存在である漆との思い出。

響は端末機で話をする相手の声に耳を澄ませた。
純は抱えたライフルを見て、道の先を見つめた。
今なら振り替えてもとの道へ引き返せるはずだと彼は思った。
長い前髪が視界を邪魔するが、彼女にはそんなことなど気にもしなかった。
これが正しいのだと信じている。

こうして、北半球を、LEを、境を、漆を裏切ったことを。葉蝶の作戦命令には従わず、別の方向へ進んでいることを。
すべては寄生者ではなく我々人間が間違っていたという彼らのたどり着いた真実の向くままに。



「響、純。こっちだ」



二人を呼び止める声でゆっくり立ち止まる。そこには桜羅の姿があった。つい先日、刃を交えた相手ではあるが、響と純はいま、LEを裏切って彼らの仲間となっている。純は安心したように微笑んだ。しかし、どこか罪悪感もあるようで目をそらしてしまったが、そんな純の心情を察して響は彼女の頭を優しく撫でた。