境と漆のペア
 

作戦の当日。

砦より数十メートルも離れた地点で葉蝶が「作戦開始!」と合図した。それをきっかけに各々がペアとともに走り出す。砦を囲むようにあるのは堀。一番やりの境と漆は堀など気にするそぶりを見せず、正門の橋を走って渡った。正門にいる兵士はあまりにも唐突で驚き何もできずに立っていたが、それも一瞬の出来事。我に返った兵士は境と漆に槍を向けて「何者だ!」と気合の入った大声で怒鳴った。ビクリともしない二人にだんだんと警戒心が高まる。



「派手に暴れりゃあいいんだよな? 私の好きなように」

「そうだね、境の好きなようにしていいんじゃないかな。僕に迷惑のかからない範囲でお願いしたいんだけど。あと、僕たちにとって持久戦になるから体力の温存もしておいてよね」

「好きに暴れていいんだな!」

「だーかーらぁーっ!」

「よっしゃー!」

「僕の話聞いてたー!?」



漆の言葉空しく、境は大鎌をふるった。それは素早かった。重たい重量のある接近武器であるにもかかわらず、境は兵士二人の胸に大鎌を滑らせた。刹那、ブシャアと噴水のごとく血を吹き出した。境の横をすり抜けて漆は木製の大きな門を一刀両断。



「やっぱ刀はなんでも切れるなー!」

「なんでも切れるわけないでしょ」

「でも私、響から聞いたぞ。オジゾウサマの首はねたって。あれ石でできてるらしいじゃねえか」

「知らないよ、そんなこと」



手で軽く扉を押して漆は門を開けた。ギイ、と重く開く。



「刀一本で開いちゃうなんて……。こんな砦が本当に要でいいのかな」

「私が聞きたいっつの」



境と漆がそろって足を踏み入れた瞬間、足元に矢が刺さった。続いてチュン、チュン、と空を切る音がして、また足元に矢が複数刺さる。フン、と鼻で境は笑った。



「入ってきた敵を内側から袋の鼠にするってわけか。……だがな、私たちはこの程度じゃあ死なねえぜ! 殺したければ、剣でも持って来い軟弱な寄生者ども!」



高らかに境は声を響かせた。大鎌の柄のほうを地面に突き立てている。壁から弓矢を突きだしていた兵士は一時的に混乱した。境の言葉を真に受けたものがいたということもあるだろう。しかし寄生者の兵士たちは境が大声で話す以前に、植えつけられていた力を駆使していた。境の頭の中を探ろうとしているのに、どうしてもそれができないのだ。
ボソボソ、と兵士たちの話し声が境と漆の耳にも届いていた。



「漆、見込みはありそうか?」

「斥候くらいは出るんじゃない?」



漆が帽子を被りなおしたのを見て、境は舌で唇を舐めた。