作戦会議
 


「好戦的な境ちゃんは漆くんと陽動をやってもらうね。正門で堂々と暴れてほしいの。南口だよ」

「上等だ」

「げ、境のせいでまた僕まで捲き込まれちゃうじゃんー」



葉蝶は確信を得て境に自信のある笑みを見せる。境には嬉しそうに拳を合わせ、漆はため息をついた。「よっしゃー!」と境が拳を天井に向けた。こんな人間にならないようにしようね、と漆は純粋な笑顔を純に向けた。純は気まずそうに境の様子を伺う。



「で、裏口には響くんと純ちゃん。中に侵入してほしいの。でもこの二人も陽動。砦の裏出入口の封鎖をお願いしたいの。寄生者が相手だから外の封鎖は境ちゃん、漆くん、響くん、純ちゃんだけで大丈夫だと思う」



資料の写真に写るのは丸い建物。壁から突き出すように大砲の窓が出ている。対空、対戦車ミサイルの窓まで見えた。境は「砦ねえ……」と呟く。



「隠密行動が得意な田中くんと椿くんは司令官の暗殺をお願い。それがクリアできたらそのまま内部制圧ね。私と夏満は最初から内部制圧をするよ。独利くんは私たちと一緒に内部制圧をしてね。単独行動はだめだよ。で、桃紫ちゃんと寂くんはシステム管理室の占拠をお願いしたいの。二人ともデジタルには詳しいでしょう? 寄生者がデジタルを扱えるとは思えないけど、一応お願いするね」

「了解」



夏満がホワートボードに次々と書き込んでいくのを境が見守る。みんなの視線が資料に落とされているなか、響は純の頭をなでた。純はずっと伏せていた頭をふと持ち上げてぎこちなく笑ってみせた。
その様を、一人だけみていた。桃紫だ。前髪の隙間からその様子をただ静かに見る。



「あの、一ついいかしら」

「はい、桃紫ちゃん。どうぞー」



挙手をした桃紫に葉蝶が発言の許可を許した。桃紫はホワイトボードをみつめる境を呼びかける。



「ねえ、遊自っていう寄生者がここに裏切者がいる、みたいなことを言ったのよね」

「ああ。まあ遊自だけじゃないがな」

「もしここに、本当にいるならこの作戦で姿を現すんじゃないかしらぁ。この砦は今後の戦いを分けるといってもおかしくないわ」



桃紫はいつものゆるやかな口調を保ちつつ、真剣なまなざしをしていた。境が呼び止められたとき、漆も顔をあげており、この話は全員が耳を澄ませて聞いている。裏切者の疑惑が晴れていない以上、この話題は誰もが注意を払っている。



「たしかに、ここは人間側が支配する北半球への玄関とかわりはない。ここの占拠を寄生者にゆるしたままでいると今後の戦況は寄生者が優勢になる。この砦を奪還しないとこの南地域は寄生者の乗っ取られてしまうだろうな」

「ここに裏切者がいるならこの作戦が失敗してしまう可能性もありますよね」


独利に椿が同意。葉蝶も右手を頬に当てて悩む仕草をみせた。



「誰が裏切者か、言ってなかったかしら」

「いや。ヒントもなかったな」

「そう……」



桃紫は残念そうに、響と純を見た。