疑惑
 


桃紫は眉間にシワをつくると、武器をしまった。ため息をする。今の状態では大変良い的なのだが、誰も攻撃を仕掛けたりはしなかった。



「中将が心配だわ。帰りましょう」

「……っあ、その……」



再びため息をする。
純は一丁の拳銃を胸元で抱えるように両手で持った。垂れ下がった眉の角度が急になる。響は「は?」と口悪く聞き直す。



「別に、彼女らを殺す気分にならなかったのよ。冷めたわぁ」

「目の前に寄生者がいるのに逃げるのか?」

「目の前に寄生者がいるのに本気を出せないのによく言うわねぇ。逃げるんじゃないわ。戻るのよ」

「同じことだ」

「あらあらぁ。四番目の言うことが聞けないのかしら?」

「俺は六番目だが、純は三番目だ」

「だったら純の意見を煽りましょう」



「ちょっと待っていてね、寄生者さん」桃紫はみわと桜羅に微笑んで見せた。みわは笑顔でこたえ、桜羅は頷く。対寄生者部隊の一員であるのに桃紫の寄生者に対する差別はなく、みわは桜羅に「眼鏡のおねえさん、いい人だね」と小さな声で話しかけていた。



「あ、あの、私は……」

「純はどうしたいと思う? 私たちは純に従うわ」

「その、帰りたい……です。中将に次の作戦は大切だから怪我をしないように、と言われているので。えっと、だ、だから、怪我をしたくないんです……」



自信なさげにうつむいて目線を横にながし、もじもじと純は判断した。響は安堵したため息をこぼし、純の頭を撫でた。

響たちとみわたちはその場で別れた。みわと桜羅は追い討ちをすることなく、殺し合いにならずに済んでほっとしていた。みわは笑顔で「ばいばい。……次の作戦で会おうね」と見送った。もっとも、後半の声は非常に小さく、隣にいた桜羅にしか聞こえなかった。
響たちは宿に向かう。その道中、桃紫は手を抜いていた四人のことをずっと考えていた。

なぜ、手を抜いていたのか。抜く必要があったのだろうか。寄生者は敵だと、教育されているのに手を抜くなんて桃紫には考えられなかった。
早急に帰ることを選択した桃紫は一刻も早くこのことを中将に知らせたかった。あのまま戦っていて、もし自分以外の四人がグルであったなら……、もし響と純が裏切者であるならば、桃紫は確実に殺されてしまう。

桃紫は急ぎ足だった。もし彼らが裏切者ならば、次の作戦が失敗してしまう。