真実に、少しだけ
 



「境、待って。ストップ。彼らと戦う必要はないよ」

「ああ!?」



漆はベッドから降りて帽子を脱ぎ、境に言う。境はちょうどロネの一閃を大鎌で防いだところだ。ドアに背中がぶつかり、外から椿の「大丈夫ですか?」という声がする。境は大丈夫だと返事をすると漆に問う。



「なんでだよ、意味がわからん」

「僕だってよくわからないよ……」

「はあ? どうして私の楽しみを――」

「三番目の命令、無視しないでよね?」

「ッチ、こういうときだけ先輩命令か」



境が大鎌から手を話したのを見て、漆はシガに改めて「これ、どういうことなの?」と首を傾げた。ロネが心配した表情で見守るなか、シガは落ち着いた様子で口を動かす。



「注意すべき寄生者集団のリストですよ。僕たちはあなたたちの敵ではありません。事情を知らないあなたたちの」

「南半球に行きたいんだよね?」

「はい。ですが、だからといって敵とは限りません。あなた方……、境と漆は主観に頼りすぎです。しかし漆。あなたとは話が出来そうですね。意外」

「……む。あのねぇ、年齢だけであれこれ決めないで欲しいんだけど」

「それは失礼しました」

「なんでベッドに寝てるの? なんで南半球に行くの?」

「ベッドに寝ているのは怪我をしているからです。動けますが、ロネは心配性ですので。あなたがまだ僕たちを敵だというなら捩じ伏せますよ」

「僕たちをなめないでよ。で、南半球には?」

「あなた方は勘違いをしている。境が言うように、たしかに道具かもしれない。それでも、意思はあるでしょう? 見極めてください。寄生者は敵ではありません。被害者なんです」

「……。意味わかんない」

「今は」

「……」



すう、と吸い込まれるようにシガは目を閉ざした。漆は考える。彼らが何を考えているのか。人間ではないのに、なぜ南半球へ行きたいのか。寄生者は被害者だという意味もわからない。漆が頭をひねっていくら考えても答えは出なかった。境に至っては欠伸をしてしまっている。戦意喪失というわけではないが、長い話に欠伸がつい漏れてしまったのだろう。



「わかった、わかった。つまり、簡略するとシガとロネは僕たちの敵じゃないけど寄生者の味方なんだよね。寄生者じゃないのに」

「そうなりますね」

「でもこっちも仕事なんだよ。もう攻撃も追跡もなにもしないから、この学校から出てって。歩けるんでしょう?」

「なんとか」

「はい、決まり。解決。今日中にお願いね。ああー、頭が疲れた!」



ロネから刀を受け取り、漆は保健室から出ていった。境は状況に追い付けず――話を聞いていなかった――漆に「もういいのか?」と聞きながらあとについていった。

残されたシガはロネに優しげな声音で話し掛けた。



「響と純が一目おくだけありますね。漆は。次の作戦で、あの元帥がやっている本当のことに気が付けばいいのですが……」