帰る理由
 



「あなたは所属する部隊に裏切者がいないと言い切れるのですか? 彼らが今、何を考え、どんな思考や悩みを抱えているのか把握しているのですか?」

「知るか。でも私は信頼してる。外部は口を出すんじゃねえよ!」

「外部だからこそ知るものがあります」

「うっせえ。私らは道具だ。軍の道具だ! 黙ってろよ外部」

「周囲を見極めてください。これは助言なんです」

「正義でも気取ってるつもりか!? それ以上私を怒らせるつもりならただで帰れると思うなよ!」



境の怒鳴り声に漆はビクッと震えた。ロネは目を細くしてそれを視界に入れる。境が舌打ちをし、シガが溜め息をついたそのとき、ロネが動いた。漆の刀が蹴り飛ばされ、出入り口のドアにぶつかる。漆が驚いて回避をした。ロネの手が空を切った。



「……いきなり何をするわけ?」

「試させてもらいました」



漆が睨む先にはロネがいたが、彼女は何も喋らず。ロネの代わりにシガが話を進めた。境は獣のように怒る眼を鋭くシガに向ける。ロネに注意を払いながらも漆も境と同様にシガを見つめた。



「あなたたちでは話ができそうにありません。帰ってください。それを拒否するなら怪我をしますよ」

「帰るのはてめぇらだ。その言葉……、そのまま返すぜ」

「いいえ、帰るのはあなた方です。僕たちは帰ることができません。帰りなさい」

「いつまでそう強気でいられるか見物だな。クソガキ」



床から大鎌を引き抜く。それに呼応して武器を持たない漆はロネの足を引っ掻けようとスライディングをするように滑った。当然のようにロネは避ける。が、漆はそのまま滑り、止まるとその反動でジャンプしてシガが上半身だけ起こしているベッドに立った。



「っシガ……!」



ここで初めてロネが声を放った。ロネが隙をみせた瞬間を狙って境の大鎌が横に空気をなぎはらい、ロネの首を狙う。紙一重でロネがなんとかそれを避けるが、避けた先には大鎌の柄が迫っていた。境はニヤリと笑った。ロネは腕で首に当たるのを防ぐと、大型武器を派手に振るって隙ができた境の腹に蹴りを入れる。ロネは転がるようにドアまで近づくと漆の刀を拾い上げて抜刀した。

一方で、漆はシガに攻撃を加えることができずベッドから降りた。シガは一瞬だけ安心した素振りを見せると漆の顔をしっかりと見る。漆は驚愕した表情をしている。それから落胆して床に座り込んだ。



「あはは……。なるほどね。僕たちの方が帰らなきゃいけない理由、わかったよ……」