桃紫と寂
 


いまだに雄叫びをあげるだけで響や桃紫、中将に危害を加えていないテロリストたちを容赦なく撃ち、斬る。銃殺、斬殺されたテロリストは次々に死んでいった。

雄叫びがなくなり、休憩室が静かになった頃になると人質を誘導した純と寂が戻ってきた。室内の状況を見てもなんの反応もなかった。純にはわずかにあったが、それでもないに等しいものだ。



「俺たちの仕事は終わりだな。桃紫と寂を連れて帰るだけ。簡単だった」

「げほっ、それは迷惑をかけたな。悪かった」

「あらあら。でも立派で正当な理由があるのよ? そうねぇ、天地がひっくり返るくらいかしら?」

「桃紫、自分でハードル上げてることに気付けよ?」

「だぁーって、北半球の、しかも軍司令部が近いこんなところに寄生者がいたのよ。びっくりしたわ。話を聞けば悪さをするつもりはなくて、お婆様のお見舞いに来ていただけみたいだけど」

「そうなんだよ! ごほっ。突然変異で人間から寄生者になったタイプらしくてだな……」



桃紫と寂の弁解に響は唸った。眉間にシワを寄せ、中将は少し笑う。困った顔をする純の頭を撫でながら響はため息を吐いた。



「それ……、嘘だろ」

「……なんだと」

「あらあらぁ……」

「よくある言い逃れだ。その程度に騙されるなよ」

「気が付かなかったわ」



手を頬に添えて控えめに驚いた表情を見せた桃紫。中将が一晩だけ宿に泊まって帰ろうか、と言おうとして、止めた。正確には強制的に止めさせられた。

さきほどまで二本の足でしっかり立っていた中将の足はバランス悪く、フラフラとしだした。戸惑い気味に真っ先に異変に気が付いた純が中将に声をかけた。中将は苦し気な声で返答をする。



「寄生者です……。っ近くにいますね」

「中将をここから離そう。対寄生者の訓練を受けていない。寂」

「僕が中将の護衛をすればいいんだな。わかった」



近くに裏口があることを知っている寂は足取りが不安定な中将を連れて、すぐさま出ていった。出ていく寸前、中将は響の方を振り向いて妙なアイコンタクトをしている。
中将と寂が出ていったあと、死体になったテロリストが複数転がっている部屋で響は皮肉らしく桃紫に言う。



「ほら、やっぱり騙されてただろ」

「たまに響って子供っぽいわよね。可愛いわぁ」

「撫でるなよ。ところで寄生者の居場所はわかるか?」

「ええ。隣のビルよ」

「俺たちが入ってきた建物か……。行くぞ」



寄生者対策としてに育てられた部隊の中でも寄生者の居場所をはっきり探知できる者は少ない。その少ないうちの一人である桃紫はテロリストから奪った拳銃から弾を抜き、机の上に置いておくと自分が愛用している短刀を両手に持った。