Before a public telephone
 


境の双子の弟である響が公衆電話を切った。透明の箱に漂っていた空気から外の空気を吸う。



「……どうでしたか?」



すぐわきに、長い棒状の物体を布で包み、抱える金髪の少女。自信無さげに八の字を描く細い眉を隠すように前髪が目元まで伸びている。前髪の間から見える蒼い瞳が響を見上げた。
響は黒髪に入った銀色のメッシュを耳に掛けながら微笑んで返答した。



「休みはないな。次は寄生者の歩兵を奇襲しろって。部隊だ」

「部隊ですか……。私たちだけでできますか?」

「できる。部隊長の首さえとれば寄生者の部隊は混乱する。それで十分だろ。あとは適当に怪我を負わせることができればそいつらは軍のお荷物にもなれる」

「……わかりました」



響は、つい先程まで自分の所属するLEの副リーダーが言っていたこととほとんど同じことを言っていた。少女――純は小さく頷いて棒状の物体を抱え直す。

LEとは、12人で構成された部隊だ。入隊した順に番号がふられる。響と境は六番目。純と漆は三番目というように。養成学校の首席のみがLEに入隊しているため他の部隊より数は少ないのだ。
対寄生者用に育て上げられた彼らは寄生者に頭を心を読まれないようにと幼い頃から教育を受けていた。大人がこの訓練を受けても効果はみられない。だから子供を教育し、戦闘能力を格段に上昇させて軍の兵器にするのだ。寄生者との戦争が始まって少し経った頃に始まったもので、第一卒業生でもやっと成人した、というくらい。だから部隊は若者で構成されるのだ。



「あ……」



小さく、響に声が届くかどどかないか、というほどに小さな声を純はもらした。響は公衆電話ボックスに立て掛けてあった大剣の柄を握った。純は荷物をぎゅっとしめる。



「5、6人が俺たちに殺気を送ってるな。寄生者じゃない……人間か」

「せ、洗脳を受けたんですか……?」

「恐らくな。だから嫌なんだよ。赤道は。この都市も他と同じように侵入不可能な防御壁でも造れよ。寄生者に侵入されないように……」

「っ来ます!」



純の高い声が場を貫く。
物陰からゆらゆらと複数の洗脳された人間が現れた。手にはそれぞれ得物を引きずっている。いくらここが路地裏でも通報くらいはされてるんじゃないか、と響は思ったがそれよりも自己防衛のため彼らを殺そうと動いた。
彼らは軍服を着ている。しかしその軍服は最初に支給された新品のまま。軍のしたっぱもいいところだろう。



「純!そのライフルはこの距離では使えない。拳銃にしろ!」

「はい!」



純は抱えていた荷物を置くとスカートの内側に隠していた銀色の拳銃を一丁とりだし、人間に銃口を向けた。