保健室
 



学校長に挨拶と事情をある程度話し、境たちは中等部の保健室へ向かうことになった。二回目ではあるが地理を把握していなかった椿よりも田中が先頭に立ち、一行を保健室まで案内した。しずかな廊下の前で椿が小さな声で言う。



「後ろをご覧ください」

「ん?」

「壁に穴がありますね。これはトラップによるものです。寄生者は保健室を開けるとクナイが飛んでくるトラップを仕掛けておりまーす。ご注意あれ」

「……うわぁお」



引き笑いをしながら漆は保健室のドアを見る。独利もついため息がもれた。田中は「大丈夫大丈夫」と気軽に振る舞って独利の肩を叩いていたが叩き落とされた。
生徒は授業中。静かな廊下に境は「息苦しいな」とドアに手をかけた。



「開けるぞ。壁まで避けろよ?」

「りょーかい、境センパイ!」

「開けるぞ」



漆が頷いたのを確認すると境は勢いよくドアを開いた。刹那、黒い物体が、認識は遅れたがクナイがまっすぐ飛んできて廊下を挟んで存在する壁に深く刺さった。
殺傷能力の高いスピードに漆と独利は冷や汗を流したが、境はニヤリと笑っていた。その好戦的な血が騒ぎ出したのだ。



「どなたですか」



保健室の中から凛とした声が響く。静かで、どこか風格のあるような少年の声だ。
少年の問いに対して境が答えた。大鎌を携えながら堂々と保健室の中へ入っていく。その後には彼女のパートナーである漆が刀を握ってついていった。そんな二人を独利、田中、椿は壁に隠れたまま見送る。



「対寄生者部隊のLEだ!」

「……一昨日もLEが来ましたが」

「寄生者を排除することが仕事だからな。お前らが死ぬまでまとわりつくぜ」

「鬱陶しい部隊なんですね」



重苦しくため息をついた少年の声は一番奥のベッドにいる。そこはきっちりカーテンで閉められていて中はわからない。しかし人影が二つあることだけははっきりとわかった。



「僕たちを殺しに来たんですか?」

「あ?」

「話をできる方はいないのですか?」



境と漆は同じ方向に首を傾げた。争い事を避けたいような言い回しだ。



「すみません、カーテンが閉まっていては会話になりませんね」



申し訳なさそうな声。立っている人影が動いて、カーテンを開けた。そこには銀髪の少年と少女がいた。少年はベッドに寝ていて上半身だけ起こしており、少女は少年の傍を離れないでずっと立っていた。



「僕はシガ。これは妹のロネです。僕たちはただ南半球に行きたいだけの人間です」