真実を告げる口
 



異様な雰囲気だった。寒くはないのに、まるで足元に冷気が漂っているようで。純は肩を震わせて、歯がガチガチと音を鳴らせていた。響でさえ、背後からの恐怖に唾を飲み込むことを忘れている。冷たい汗が全身から流れてくる。

二人をそうさせてしまうほど、中将の声は鋭かった。



「そうでしょう?」



中将の一言にビクッと肩を揺らした。



「っ……証拠がどこにある……? どうして裏切者が俺達だと思うんだ?」

「図星のようですね」

「は……」

「なぜ開口一番に裏切者ではないと否定しないのですか?」

「それは」

「お前たちが裏切者だと至るまでの経緯をお話ししましょう。……そうですね、まず一つ目を話しましょう。夏満に調べさせましたが、二人揃って定期的に『どこか』へ連絡しているようですよね。純は用心深く履歴をすぐに削除していたようですが、響。貴方はあまり周りを見くびらないほうがいいですよ? 漆にも調べさせていますからね」

「……っ漆……!」

「安心なさい、純。漆はまだあなたたちが裏切者だとは気が付いていません。まあ、純が裏切るだなんて毛頭も考えていないでしょうけど」

「そんな不確定な話、信じられるか!

「二つ目」



中将は右手の指を二本だけ立てた。余裕を込めたゆったりした言葉が、どうにも響には癪にさわった。つい気持ちが高ぶってしまいそうになる。しかし、そうなってしまえば中将の思う壺だ。
なんとか堪えて、次の言葉を待つ。



「シガとロネをご存知ですか?」

「! お前……」

「解りやすくて結構。若者はそうでなくてはつまらないですしね」

「なぜあの二人の名前を……」



シガとロネ。南半球側にいる双子の兄妹だ。響は聞き覚えがあるその名前に驚く。響だけではない。純も、だ。
冷や汗をダラダラと流し続ける響の感情を察しながらも中将は続けた。



「あの子たち、実は私と繋がっているんですよ。シガとロネから聞きました。『響、純という者が対寄生者部隊に所属していますか。所属しているのなら、彼らは北半球側にとって裏切者です』と」



響の喉はカラカラだった。
ライフルを震えた腕で抱えたまま純はぺたんとその場に座り込んでしまった。その純の頭に照準を合わせて中将は笑った。余裕のある微笑みとは比べ物にならないほどの笑み。客観的に見ればそれは同じ笑みなのかもしれないが、状況がそうは言わせない。



「あなたたち二人はLEを……裏切りましたか?」



その問いに、響の答えは一つしかなかった。真実を告げるしかないように思えた。目をふせる純の小さな背中は小刻みに揺れ、床を濡らす。
響は、真実を告げた。



「……ああ……、俺達は裏切っている。境や漆を……、LEを裏切っている。俺と純は寄生者を救いたい」