見学者一名
 


「お、思ったより近くにありましたね……」

「そうだな」



純は控えめにライフルを抱えながら目の前にある建物を見る。月明かりに照らされた野次馬に囲まれたその建物は銀行。軍の本部から車で二時間行った先にある銀行であった。そこに立て籠り犯数人と複数の人質がいるのだろう。あいにく、建物の中はブルーシートに囲まれてしまっていてよく分からない。



「外からじゃ様子がわかりませんねえ。中に入るのですか?」

「そうしようと思う。ついてくるのか?」



響は自分よりも身長が高い男性を、中将を見上げた。中将はクスクスと笑う。



「外からではあなたたちの見学ができないでしょう?」



響と純の仕事ぶりを見学するために二人についてきた中将は、さも当然だろうと言う。響は足手まといにならないか不安であった。中将とは、軍の中では地位が高く、彼の実力を伺い知ることは「中将」という肩書きで十分だ。しかし、話に聞く限りでは中将はデスクワークを主流にしているらしい。司令塔の役目をする中将なら何度も見たことがあるものの、実際に動き回る実力はわからないものだった。



「隣のビルから銀行に繋がる階段がある。そこから侵入して桃紫と寂を救出しよう」

「は、はい!」

「中将、足手まといになるなよ」

「ええ、心配は無用ですよ」



にこり、と中将は微笑む。さっきから中将は笑ってばかりだな、と思いながら響は駆け足で進んだ。その後ろに二人が続く。それぞれ手には武器を持っている。響は大剣、純はライフル、中将は拳銃だ。

ビルに入ってから思い出したように中将が「そういえば」と話を持ち込んだ。



「なんだ?」

「いえいえ。境の報告書はご覧になりました? 面白かったんですよ」

「はあ……? 私語ならあとにしてく――」

「裏切者がLEにいる、とか」

「……それがなんだ? 寄生者のLEを惑わせる嘘だろ?」



純は話には加わらないで響と中将を交互に見ていた。もともと垂れ下がった眉がさらに垂れ下がる。くだらない、と響は大剣を構えたまま足を進めた。



「何を言いますか。とぼけようとしても無駄。裏切者はお前たちだろうが」



突然。
中将の威圧感、覇気、嘲り笑う、口調の強い声。ドッと冷や汗が滝のように流れ、呼吸や心臓を止めてしまうような言葉。中将の厳しい一言は一秒を長くした。
響は珍しく怖じ気、純は目を見開いて呼吸を整えていた。響と純の後ろについていた中将が、自分達に銃口を向けているような気がする。
中将は、まさに、恐怖そのもの。

沈黙が続いた。