分岐は何処か
 


「出発は早めにお願い。急な仕事で本当にごめんね。私はあっちの部屋にいる夏満と次の作戦について話をしないといけないから、もう行くね」



あっち、と相手にはよく分からない言葉を使う。
各々立ち上がり、部屋を出ていくのを確認すると葉蝶は部屋の扉に鍵をかけた。
「じゃあ、お互い頑張ろうね!」と笑顔でいい残して、速足で廊下の先に消えていった。



「まーた遅いって夏満に怒られるような歩き方だよね」

「歩き方でこの先の未来がわかるのかよ」



漆が境を見上げて言えば彼女は同意しにくい顔を見せた。



「人質になってるなら俺たちは今すぐにでも発ったほうがいいな」

「そうですね」

「じゃあ俺たちはもう行くから。ま、頑張れよ」



書類を持っていないほうの手で軽く手をあげながら響は歩いていく。純は漆たちに手を振ってから響の後を追い掛けた。中将がいる部屋を目指す。

境と漆と独利は廊下に残された。



「で、俺たちはどうするんだ?」

「独利はなにか意見とかないのか?」

「俺はお前たちのオマケみたいなものだ。境と漆が決めろ」



口元だけではわからない独利の表情。漆は「ふうん」と言って、すぐあとに元気よく手を挙げた。



「はいはいっ」

「はい、漆」

「僕も響たちと同じように早めに行った方がいいかなって思うよ。椿の武器、壊れちゃったんでしょ? 早く渡してあげないと困るんじゃないかな。強い寄生者なら、なおさら」



頷いて話を聞く独利は漆の意見に賛成しているようで、途中で口をはさんだりはしなかった。



「そうだな。私も、はやく体を動かしたいから賛成だ。じゃあ荷物を準備してからまたここに集まろう」










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「……LEの一人と、養成機関に勤める一人が死んだか」

「ええ」

「LE以外でも対寄生者部隊の人間が、今月に入ってもう20人も死んでおる……!」

「報告書によれば、強い寄生者が現れたそうですよ。元帥殿」



中将――師団長が、広々とした一室に、いた。部屋の床は足音を消すように柔らかい絨毯が敷かれ、部屋のあちこちには力強い彫刻が彫られた重たい家具が鎮座している。壁には金の額縁で覆われた絵画が飾り付けられている。ピカピカに磨かれ、ホコリひとつ存在しなかった。いかにも豪勢で清潔な部屋だった。



「元帥殿、いかがなさいますか?」

「どうするもないわ。LEに任せよう。対寄生者部隊のなかでもLEはトップクラスだ。そのうち一人を殺した、その強い寄生者とやら。これからが面白そうだ……」