七番目・独利
 


「よお、独利!」

「……」



境と響は部屋を出てからすぐに独利の部屋へ向かった。いざ中に入ると、彼は屋内でも深く帽子を被ったまま台所にいた。ちょうど昼食を作っていたらしく、境と響は嬉しそうにした。独利は「早く出ていけ」と言わんばかりの雰囲気を醸し出していたのだが。

七番目の独利とは、普段から深く帽子を被り、前髪で目を隠している青年だ。雑に切られた黄土色をした髪。身長は低めだ。だが、男にしては低いだけだ。
彼の性格は仲間をつくらず敵をつくるようなものだ。毒舌を吐き、それが当たり前のように平然としている。自分の利益のみを最優先にする。どんな時でさえも自分を優先させるのは境と響も身に染みて理解していた。LE全員で同じ戦場に立つような作戦はそれなりの頻度であった。独利はついこの間死んでしまった色とペアを組んでいた。境と響、ペアの漆と純も被害を受けている。囮にされたりなど、珍しくもない。他者から嫌われるような性格だが、彼のせいで死傷した人間は一人もいない。仕事の成功率も高い。LEの中でも独利の愚痴を言うものがいるのだが、誰も彼を嫌っていないのは確かだ。



「何の用だ」

「私たち昼飯がなくてさ! 独利、分けてくれよ。そのチャーハン」

「俺になんの得があるんだ」

「あー……、私と響の好感度が上がるぞ!」

「交渉決裂。諦めろ」



広い皿に盛られたチャーハンをスプーンですくって食べ始める独利。ついよだれが流れてしまいそうな境は歯軋りをした。



「ヘタクソなお姉様」

「うっせえ」

「俺が独利を落とす」

「よっ! イケメン! 期待してるぜ」



前髪をかきあげて眉間にシワを寄せた境の肩をおして後ろに移動させると、響は前に出る。そして無言で食べ続ける独利の正面に座った。舌打ちをされる。



「視界の邪魔だ。飯が不味くなる」

「……いま境と話してる間にもう半分も食べたのかよ……。というか独利に目があったとはな。見えないぞ」

「喧嘩を売ってるなら買う」

「境と違って俺はそんな商売をしていない」



「んだと!?」と、境が怒るが、無視をして響は冷静に続けた。



「独利が俺たち双子に昼飯をくれると、いいことがある」

「期待はしないが、言ってみろ」

「お前、午後から色の部屋の片付けをリーダーから言われてるだろ」

「!」

「二人分のチャーハンをくれるなら手伝ってやる。一人で部屋の片付けをするのって案外時間がかかるんだよな……」

「……」



独利のチャーハンは空だ。
試すように唇の端を持ち上げた響は、帽子と髪で見えない独利の目がありそうな場所を真っ直ぐ見つめた。独利の動きは固まっている。
沈黙が何分も続き、境は眠そうにあくびをした。



「のった」



独利が境と響に、冷蔵庫にあった二人分のチャーハンを取り出してテーブルに置いた。
彼が嫌われないのは、気配りの良さだ。囮に誰かを利用しても、その囮に大きな怪我が出来たことがないのは、彼が救援を呼んでおいたり、自分の仕事を早く済ませて助けに来てくれるところなどがある。