A red hill
 


「……そんなことを言ってしまえば、我が儘を言えないじゃないですか……」



純は苦笑いをして、目に涙をためながら震えた声で言う。純の涙に、漆も涙腺が緩みそうになったが、自分まで泣いてはいけないと、鼻を赤くしながら口をきゅっと閉ざした。



「漆、純……いままでありがとう。お前たちはもっと強くなる。……死ぬなよ……。生きるんだ……」



その言葉を最期に彩は目を閉じた。純はボロボロと大粒の涙をいくつもいくつも流しながら銃口を向けた。顔もぐしゃぐしゃになり、声だけ唯一抑えているような状況だ。漆も目尻に涙を見せるが直ぐに袖でゴシゴシと拭き取ると帽子をとって深く頭をさげてから刀を構えた。

引き金をひく。

切っ先が心臓を突く。

それだけで二人の教官は呆気なく死を迎えたのだった。引き金をひいたあと、純は泣き崩れて我慢していた声をあげて大泣きした。漆は次々に溢れてくる涙を必死に拭い続ける。

その中、久しぶりとも思える声が辺りに響き渡った。



「おい……」



境だった。一人で港へ行ってきたのか、と響は大剣を地面に突き刺して境のほうへ体を向けた。
境が帰ってきたなら任務は達成したんだろう、と思う。



「境か。お帰り」

「『お帰り』じゃねえよ! なんで殺したんだ!? 彩は漆と純の教官だぞ!? なんで……!」



どうやら境は漆と純が彩を殺した様子を見ていたようだった。彩が漆と純の教官であり、仲間だったことを認識していて怒っていたのだ。
眉をつり上げていまにも殴りかかりそうな血相をした境から死んでしまった彩へ視線を移しながら言う。



「純、境が帰ってきたってことは任務終了だ。先にリーダーへ連絡しておいてくれ」

「は、はい……」

「聞いてんのかてめえ!」



境の怒声に小さな二人はビクッと肩を震わせていた。よく大きな声を出すが、境の怒声は珍しい。純に指示を出した響は軽く説明をすることにした。仕方がなかったのだと。



「彩は寄生者に洗脳されていた。……だから殺したんだ」

「……そんな」

「事実だ。漆と純が殺したのは彩が望んだから。町にいったん帰るぞ。詳しい話は明日の予定が決まってからだ」

「……」



仕方がないことだったのだ。そういうと境の怒りがまるで嘘のように冷め、響から離れた。
純がリーダーに連絡し、つい先ほどまで呼吸していた彩の亡骸を漆が綺麗にする。漆の持っているハンカチは彩の血を肌からふき取っているせいでだんだん赤くなる一方だった。