赤くなる丘で
丘まで戻ってきたはいいが、なんというか……私が話しかけてもいい雰囲気じゃなかった。響たちにばれないようにと、見えるだけでぎりぎり離れたところから彼らを観察することにした。つか響と漆と純、私が遊自を退治している時でさえずっとここにいたのかよ。なんで誰も来なかったんだ? いじめか? んなことしたら私はもう一度反抗期でも迎えてやるっつの。
「……誰だ、あれ」
響、漆、純の目線の先に知らない女がいた。長い黒髪をポニーテールにしてまとめた女だ。どう見ても私より年上で、大人の女性であろうことはだいたいわかる。彼女は力なく項垂れて座り込んでいた。でもなんでこんなところに? 何をしている様子なのかもさっぱり分らないしな。 寄生者って感じもない。救援に出なければいけないほど危機的な状況だとはどうしても見えない。なんとなく、このまま見守ることにした。
(あの女、誰かに似てる気がするんだけどなあ……。私の知り合いはー、中将、リーダーさん、副リーダーさん、桃紫、色……。色、に似てる?)
LEのメンバーを思い出していくと、五番目の色に似ている気がして私はもう一度あの女を見た。まさかとは思うが、死んだ色と同じ任務をしていたっていう、彩か? 彩はたしか色の唯一の姉だったな。似ているのも当然……。彩は行方不明だったはず。どうして今ここに? それになんで今なんだよ。 自問自答を繰り返すうちに銃声がした。近くだったから純だろう。 まさか、と思って視界に彩を移せば、バタリと倒れる音。追い打ちをかけて、漆が刀で彼女の心臓を突き刺す。 漆から、色の姉……つまり彩はあいつらの教官だって聞いてる。漆と純からすれば教官は親のような、家族のようなものだろうに、なんで殺したんだ……?
「おい……」
「境か。お帰り」
「『お帰り』じゃねえよ! なんで殺したんだ!?」
冷めた響が、真っ赤に地面を染める動かなくなった彩を見ながら言った。その様子に腹が立つ。LEじゃなくても彩は紛れもなく仲間だ。
「彩は漆と純の教官だぞ!? なんで……!」
「純、境が帰ってきたってことは任務終了だ。先にリーダーへ連絡しておいてくれ」
「は、はい……」
「聞いてんのかてめえ!」
「彩は寄生者に洗脳されていた。……だから殺したんだ」
「……そんな」
「事実だ。漆と純が殺したのは彩が望んだから。町にいったん帰るぞ。詳しい話は明日の予定が決まってからだ」
「……」
洗脳された仲間はいままでに何度も見てきた。そして自分の手で殺してきた。さっきまでの怒りがまるで嘘のように冷め、私は詰め寄っていた私は響から離れた。 純がリーダーさんに連絡し、さっきまで呼吸していた彩の亡骸を漆が綺麗にする。漆の持っているハンカチは彩の血を肌からふき取っているせいでだんだん赤くなる。 なんだか、悔しかった。 寄生者なんかいなければ……。 裏切り者がいたからこんな結果になってしまったんだと思うと、先ほどの怒りがまたこみあげてきたのだった。
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