裏切者の存在
 



「ざけんな!! 誰がそんな話を信じるとおもってんだよ!!」

「ええ、ですからそれは六番目の自由です」



遊自は変わらない笑顔のままだ。
つか、裏切者の話なんて信じるわけがない。裏切者がいるってことはLEの中に寄生者がいるってことだ。対寄生者部隊に寄生者? 自殺行為だ。それに誰が寄生者か、だなんて私たちには見破ることは容易い。遊自のはったりだ。
気をそらすためのはったりに決まっている。
本当だとしても、これを私に言う理由がない。言っても遊自にとって不利じゃないか。わざわざ裏切者がいるなんて教えたら内部捜査をするかもしれないのに。
……いや、ここまでの考えが遊自の読み通りだったらどうする?

もし本当に裏切者がいるとしたら、仲間同士で疑心暗鬼にさせることが目的ならば? でも、裏切者が実際にいなくたって疑心暗鬼にさせることができるんだから遊自が私に言う必要はないはずだ。寄生者なんて見破れる。こんなの……。



「そうです。嘘かもしれないし本物かもしれない。寄生者を見破ることができるのがあなたたち対寄生者部隊です。しかし裏切者が寄生者ではなく人間だったらどうですか? 裏切者が寄生者だなんてワタクシは言っていません」

「……頭を読んだか」

「動揺をしていればたとえ対寄生者部隊のLEであっても読むことは可能ですよ」

「ッチ」

「おやおや、見えなくなってしまいました。残念ですねえ」



クスクスと遊自が笑い、私は睨んだ。ふざけた口調にだんだん腹が立ち、怒りを覚える。

つーか、人間が人間を裏切るわけがないだろ。今の戦争は人間側に勝機が向いてるんだ。寄生者側についたところで良いことがない。LEにそこまで馬鹿な奴はいないはずだ。最年少の漆なんて私より頭が良いっていうのに。

嘘に決まってる。



「え、あ、おい!!」

「ふふふふふ、ではでは六番目! ごきげんよう!」

「逃げるな遊自! おい! ……なんなんだよあいつ! 逃げ足速すぎるだろ……!」



あんな重たいチェーンソーを軽々と持ち上げた遊自はもう数十メートルも先にいる。
追い掛けようにも距離が距離だ。簡単には追い付けない。遊自の機動力にぽかんと口が開き、なにも言えないまま肩にかけていた大鎌を下ろした。



「……響たち、来てねえな。戻るか」



遊自の目的であった一人を逃がしてしまったが、まあだいたい任務はクリアしただろう、と私は来た道を辿ることにした。