A shout of waking
 



「え!?」



漆は振りかえって純の確信した強い表情を見て驚いた。
内気で、普段は弱気な表情をする純が珍しく強気を見せているのだ。漆は純を信じて彩に「教官」と呼び掛けてみた。

響には彼らの行動がわからなかった。洗脳された人間は寄生者に治してもらうしかない。たとえ洗脳した寄生者を殺しても洗脳は解けない。もっとも、彩を洗脳をした寄生者が誰かなのかは現段階ではわからないものなのだった。
洗脳をされたら寄生者の人形。まっとうな人間として生きることは不可能。漆と純はそれでも呼び掛けているというのだから響には本当に理解ができなかった。対寄生者部隊ならば、この洗脳された人間は誰であれ殺すべきだ。



「……っ」



しかし響の考えに反して彩の効果はあった。洗脳されたはずの彩は顔を歪め、目に涙を浮かべるのだ。



(……まさか……。洗脳されたはずなのになぜ……。洗脳されたのが嘘だったのか? いや、そんなことはないか。対寄生者部隊側の人間が寄生者側につく理由がない。最愛の弟を殺されているんだ。洗脳はされたはず……。どうして洗脳を受けた彩は「彩」としての意識を復活させている? 寄生者の洗脳の力が弱かったのか……?)



いぜん武器を握る力の手は緩めないまま響は漆と純を見守るようにした。彩がいつ動いても対応できるようにしておく。用心深い漆も刀を鞘に戻したりはしていない。



「教官、わかりますか? 私たちがわかりますか? ……」

「……純……?」

「! 教官!」

「……嘘だろ。洗脳されたのに個人の意識を取り戻すなんて……」



呆れ半分、驚き半分で響は目を丸くした。本当にあり得ないことなのだ。例えるなら蛙の子供であるおたまじゃくしが金魚になるような。
響は目を疑った。
初めて聞いた彩の声は凛々しく、力強い声だったのだ。境も力強い声なのだが、それとは違い女性らしさもあった。

逆なら響もわかる。彩の弟、色は対寄生者部隊として教育を受け、境と響たちのように寄生者の攻撃は効かないように訓練されている。彩は対寄生者制度ができる前に生まれたため、人間として戦う術は備わっていても寄生者と戦う術はないのだ。死んでしまった五番目の色に洗脳が効きにくいというならまだしも。



(いや、確かに寄生者の攻撃を「庇う」なんていう荒業はあるが成功した試しはないし……)



ポロポロと涙を流し、漆と純の名前を繰り返して膝をつく彩を見ながら響は考えていた。