真実と嘘の境界線は曖昧
 


甲高いチェーンソーの音が頭の中にまで響く。まるで頭蓋骨がスピーカーのように揺れて脳を揺さぶられる感覚だ。立ち眩みをしたときのように地面がどこなのかわからない感覚まで追加されてしまう。ああ、これは寄生者が力を使っている証拠だ。
遊自はチェーンソーを鳴らしたりはするのだがそこから一歩も動かずただ生気のない眼で私を見ている。どうみたって私を洗脳しようとしてる様子だ。
しかし洗脳にしては甘い。もしかしたら一定時間だけ動きを支配しようとしているのかもしれない。まあ、どっちにしろ良いことじゃないし、私には効かない。



「突っ立ってんなよ、クソ野郎!」

「やはり効きませんか。さすが六番目。話に聞いていた通りです」



チェーンソーに耐えれるほど私の大鎌は頑丈ではない。この大鎌はガキの頃から使ってるんだ。愛着があるし、使いやすい。そんな大鎌をこんなところで壊されるわけにはいかねえ。
遊自は接近する私に片手でチェーンソーを持ち上げて降り下ろす。タイミングは良かっただろう。だが私は遊自に真っ直ぐ近付かず大きく逸れてから回り込み、後ろから上に斬りつける。チェーンソーを地面にめり込ませたんだから持ち上げるのは苦労するだろう、と思ったのだが、遊自は武器から手を離して回避したのだった。



「……あ? 武器から手を離すって、馬鹿か?」

「大鎌を投げる貴女には言われたくありませんねえ。面白くない冗談ですよ」

「つかよ……、お前さっき『話に聞いていた通り』って言ってたけど、誰から聞いたんだよ」

「……おやおや」



仮面をつけていない素顔もずっと笑ったままで、そっちも仮面なんじゃないかと疑いたかったが初めて「笑顔」以外の「驚いた」顔を見せた。



「知らないのですか?」



遊自は真っ黒な眼を丸くしながら言う。
私が「何がだよ」というと、また笑顔に戻った。しかし先ほどとは打って変わった笑顔。薄っぺらい笑顔なんかじゃない。至極楽しそうな笑顔だった。極楽のなかにいるような、そんな面だ。



「これは面白い。非常に面白い」

「だから、なにが……」

「良いことを教えてあげましょう、六番目」

「……んだよ」



遊自の奇妙な雰囲気が冷たく、息を飲んだ。大鎌を握る力は強くなり、自然とあの仮面を睨む。



「LEのなかに裏切者がいますよ」



弾けんばかりの笑顔のまま遊自はさらりと言う。そして笑顔のまま、さらに続けた。



「名前までは言いません。そこまでして仲間を売りたくありませんからねえ。敵の言葉を信じるか否かは六番目にお任せすることにしましょう」