War of the mind
 



「うあ……っ」

「?」



彩が小さく、まるで小動物の鳴き声ほどの小さな声で喉のそこから声をだした。それに気が付いたのは純だけだった。純は彩から一番遠い位置に武器を構えていて、実際は声など聞こえなかったのだが一瞬だけわずかに顔をゆがめた彩に首をかしげたのだった。



「教官、本当に僕たちのことわからないの?」

「漆、洗脳されてるんだ。認識できるはずがない」

「そう、だけど……」

「行くぞ」

「うん……」



響にくしゃっと帽子の上から頭を撫でられて漆は彩に対する未練を吐き出すように息を吐いた。先に彩と応戦しだす響の背中をみる。
パートナーの双子の弟。まるで瓜二つの容姿。ほとんど大人と同じ体つきまで成長した響の背中は境と重なる。同じ大型の武器を振り回す響の背中は境と錯覚してしまいそうだった。それはあくまで容姿の話。漆は境にない嫌な雰囲気を響に感じていた。胸騒ぎがするような感覚を――。



「純、援護よろしくね」

「はい!」



漆は帽子を被りなおして刀をもち、彩を背後から突くように地面を蹴った。やはりというべきか、彩は避けてしまった。避けた先では響が大剣を振り、さらに純が彩を狙って撃つのだが、その前に彩は片手に持っていた拳銃で純を狙い、そのせいで純の照準はずれてしまった。そのずれた照準は響を狙い、たまたま前に出ていた大剣で防いだ。響は冷や汗を流した。
寄生者を相手に戦うのは響たちのほうが経験が多いのだが人間を相手にするのは彩のほうが圧倒的に多いのだ。しかも漆と純の教官だったということでもあって二人の戦い方をよく知っている。純はあわてたときに銃口を左右のどちらにずらすのかも知っている。漆の一回目の攻撃は様子見を兼ねていることも知っている。

相手が悪い、と。
彩と響はまだお互いをしらないのに対し、彩と二人はよく知っているのだ。二人に戦い方を教えた教官を相手にしているのだからどうしても分が悪い。

このことは響だけでなく、漆と純もたった数秒で察していた。
どうしたらいいのか。



「あの、教官」

「純?」

「教官、聞こえますか?」

「純、なにをしているんだ。彩は洗脳されているんだぞ。もう……」

「さっき、一瞬だけですが苦しそうにしていました。これって、もしかしたら教官は完全に洗脳されたわけではないのかなって……。だ、だって、洗脳されたら寄生者の人形。表情なんでないはずなのに。……もしかしたら教官は戦ってるのではないのかと……おもって……」