自我を弄ぶ少年
 

さて、最後の奴を殺すか。

そう思って、つい先ほどまで顔を真っ青にしていた寄生者がいるほうへ向いたのだが、そこには誰にもいなかった。正気にもどってどこかへ逃げたか? と思い、まだ見ていない方角へ見渡してみようと思った。が、視界の端でこちらに迫ってくる影が見えたから敵かと思って、その垂直線上から離れた。
ガガガガガガ、とコンクリートの地面に荒々しく亀裂が入る。



「てめ、誰だ!!」

「フフフ。誰だって、聞きたいのはワタクシなんですがねえ。そちらが先に喧嘩を売ったくせに。面白いヒトだ!」

「……。お前、寄生者か」



亀裂が入ったコンクリートの近くに、その亀裂ほいれた人影がいた。よくみてやれば、そいつは緑色っぽい変な目立つ髪をしている。しかも長い。フードが付いたパーカーを着ており、星の絵柄がひたすらはいったもの。色的にも目立つもので、派手。こちらを向いたそいつの顔はぞっとするほど不気味なものだった。
死んだように光も生気も拒絶したような真っ黒な目に、顔の左側半分だけをピエロの仮面で覆っていた。隠されていないほうの顔には薄く気味の悪い顔が張り付いている。口からは案外低い男の声が発せられていた。



「ハハハ。ええ、そうですよ。面白いことを聞きますねえ。この状況ではどう見てもワタクシは寄生者でしょう。ねえ、六番目」

「はっ、番号までわかってんのか。ってことは今、お前はLEと喧嘩しようとしてるってわかってるんだろうな?」

「もちろんですよ。ちなみにワタクシの名前は遊自です。お前だとかいう曖昧な二人称で呼ばないでいただきたいですねえ」

「はいはい、遊自な。で、そこらへんに転がってる仲間の仕返しか?」

「数多の寄生者は仲間の復讐をするでしょうが、ワタクシは違いますよ。復讐ではありません。なくなったものは気にしない主義でしてね。六番目の前に立つのは復讐のためなんかじゃありませんよ。生きのこった彼を逃がすためです」

「……なるほどな」



遊自の背後を私がいる方ではないところへ駆ける、あの真っ青だった奴を見る。私は相変わらず薄い感情を読ませない笑みを張り付けた遊自の手にもっているものを見た。チェーンソーだ。重たいチェーンソーを片手で持つなんていう芸当を見せてくれる遊自に汗なんて一切浮かばない。
あんな細い体でよく片手で持てる。あ、もしかしてリーダーさんみたいに馬鹿力なのか?
まあどうでもいいか。見た目はだいたい私と同い年くらい。20歳未満の寄生者は、今が寄生者としての力の全盛期。
おもいっきり楽しめそうじゃないか。