Complex
 



「境が好戦的なのって昔からなの?」

「いや……」



諦めたように息を吐き出し、漆は響を見ながら言う。表情に変化はないものの、響の雰囲気は明らかに姉に対する苦労を表している。「境とパートナーになってから疲れてるんだけど」という言葉をのみこみ、漆は返事を促すように首をこてん、と傾げてみた。
小さな女の子が好き、という響は、小さな男の子が嫌いではなかった。響は子供が好き、とまとめたほうが「小さな女の子が好き」、つまり「ロリコン」の疑いは無くなるわけなのだが周りはロリコンだと思っているのだろう。男の子より女の子の方が比較的に好んでいるため響自身も否定すればいいのか悩んでいるところがある。
ここで漆が首を傾げる、という効果はあった。響の方へ顔は見上げられているものの、大きな目が眩しい銀髪の間から覗き、陽が漆の色を透き通らせる。子供として、いまの漆は可愛いものだった。
ただし、漆が計画的な策略家で腹黒いと痛いほど理解している境が今の響の立場になった場合、寒気に身がよだつだろう。腹の内では「早く答えてよ」と睨んでいるだろう、と境は脳裏に浮かべて想像する。そうすれば口から「お前、本当にガキか?」という言葉が飛び出すだろう。
響は漆といる時間が短く、境ほどよく理解していない――逆の境と純の二人もまたしかり――。そのため、なんとなく彼が腹黒いということは知っていても今、この瞬間にもその黒さが滲み出ていることだろう。
境よりも付き合いが長い純は漆の服の裾を控えめに引っ張っているが、響は気付いていない。



「昔な、境は強くなりたいって思ったことがあったんだ。毎日のように武器を握り締めて離さなかった。で、人を倒していくうちにその楽しさを見出だしたんだろ」



どうして、と理由は聞かなかったが漆は純の、純は漆の目をみた。



「見出だしたから今はあんな風になっているんですね」

「あの後先考えないで戦いにいくのは?」

「最初からだ」



漆が歩きだし、響への返事をしようとしたその時、パァンとエコーをかけながら辺りに音が響いた。
すぐに純はその音の正体に気付いた。



「銃声……っ!」



真っ先に視力の良い響は港をみた。しかし戦闘をしている様子はない。響は大剣を持って「近くからしたよな?」と二人に確認をとる。漆の返事は刀を鞘から抜くことで示された。



「胸がザワザワします。……寄生者ですね……」