海のみえる田舎町
 



目の前は海。
緑ばかりの田舎町のすぐ目の前には大きな果ての見えない海が広がっていた。空は青く白いもやを浮かばせている。植物も沢山の種類が生え、田畑も延々と広がっている。
静かな田舎町だ。

仕事を引退して落ち着いたらこんな静かな田舎町に住みたい。いつか弟の響に話でもしようか。っといけねえ。だめだ。私たちは観光に来たんじゃない。仕事にきたのに。
大鎌を肩にかけて私は小道から田舎町へ出た。
隣にいる漆は念をおすように今回の依頼の内容を言う。



「今回は海岸によく出る寄生者を殺すか捕まえるのが仕事なんだから変なことしないでよ?」

「はいはい。何度も聞いた」

「だって境、何回言ってもへんなことするじゃん。前回は寄生者の前で宣言するし」

「今回こそなにもしないって」

「ええー。……信じられない。境ってまだ年下の僕にこんなこと言われて悔しくないの?」

「まだって、永遠に漆は私の年下だろうが。まあ、悔しいけど慣れたな」

「可哀想な……」

「なんでだよ!!」



帽子を被りなおす漆はため息をついた。わざと境に聞こえるように。本当にムカつくガキだ。
私は大鎌をもつ手に力を加えたが漆に「ほら、変なこと」とつい先ほどの話を掘り返されるのは目に見えていた。そのため、大鎌を漆に振ることは諦めることにする。



「とりあえず町をぐるっとまわるぞ。いや、その前に依頼者へ挨拶か」



大鎌を担いで私は歩き出す。後ろに漆がついてくるのを感じながら町に降りていき、そこらへんを歩く人に町長がいる場所を聞いた。そのときふと変なことを聞き、私と漆は首を傾げたのだ。
「あら、LEの方ですか? 先ほども二人組を見かけましたが」
この台詞のあとに町長がいる家を聞いたのだ。

LEは基本的に二人組を組んで仕事にあたる。
私と漆、弟の響と純のように。
最近は仕事が連日続いていて会えないが、田中と椿のペア、リーダーと副リーダーのペア、桃紫と寂、色と独利。まあ、色はこの間寄生者に殺られたって聞いたけど。姉の彩は行方不明だとか。寄生者だって弱い奴ばかりじゃない。強い奴だっている。私たちが依頼でよく見る寄生者は素人で弱い奴ばかりだが、それとは逆の寄生者は戦場にゴロゴロ存在するのだ。色が死んだのはそんな寄生者が相手だったからだろう。

ナンパばかりするけれどもいい奴だったから死んだと聞かされたときは寂しかった。それに彩は漆の教官だったらしいし……。

そう思って斜め下の漆を見た。



「? ……どうかしたか?」



帽子のせいで漆の顔はよく見えなかった。しかし勘だが彼は何かに驚いているように見えた。
すぐに漆は「純がいる」というのだから私も驚いて漆の見ている方を見た。

そこには確かにいた。

肩に毛先がつくような短い髪、目に入りそうな長い金髪で碧眼の少女が錆びかけたベンチに一人で座っていた。布を巻いて大事そうに抱える棒状のそれはきっとライフルだ。あの少女が純ならば。というか純だ。見覚えがある少女なのだから。その上、漆が純を見間違えるはずがないのだ。