It can murmur.
 



人影は僅かに光を放つ光の前に姿を表した。
女性らしい細い線。眩しいほど白い肌。漆黒のつやのある髪。空のような青い瞳。手に持つ棒は一目で刀だとわかる。長い睫毛の奥で睨まれ、その人影は一言も発することを必要にしない威圧感を放っていた。



「きょ」



純は抱えているライフルに目を落とし、唇をぎゅっと結んだ。響は口を出さない。



「教官……?」



ライフルにまわした腕に力を込め、純は見上げた。教官――彩に敵意を向けられているということくらい素人でもわかる。
なぜ敵意を向けられているのかは響にも純にもさっぱりわかることはない。しかし彩の弟である色の死因を考えれば大方予想はつくものだった。
寄生者の洗脳によって色は死んだ。
それならば一緒にいたはずの彩だって洗脳を受けていてもおかしくはない。
行方不明だった彩は死んだと思われていたが、こうして響と純の前に現れたということは、死んでいなかったということ。死んでいなかったとしてももうひとつ問題はある。洗脳を受けているかも知れないのだ。洗脳を受けてもすぐに狂って死ぬわけではなく、洗脳した寄生者の手駒となるパターンもある。
もし目の前の彩が手駒となっていた場合、その戦闘能力が寄生者側になるのだ。たとえ響と純がLEだとしても彩を相手にするばただではすまい。



「教官、わ、私のこと……」

「――」



彩は小さく口を動かすが、声は小さかった。純が確認をとろうとしたが彼女は響と純の間を通って出口の方へ行ってしまった。



「……純、彩がなんて言ったかわかったか?」

「声ははっきりと聞こえませんでした……」

「そうか」

「……えっと……。に、任務は達成したので早く南半球から出ましょうっ。寄生者たちがたくさんいて危ないですし……、達成のお知らせもしなくては……」

「純、もしかして我慢してないか?」

「してませんよ?」

「我慢をするのは純の悪い癖だ。溜め込むなよ。だれでもいいから吐き出せ」

「……」



響は純の頭を撫でてから先に出口へ向かった。
純は撫でられた頭を控えめに触りながらこの場にいない銀髪の小さな少年の名を呟いた。