寄生者の排除
 




「ねえ?」



暗い場所でも目がきくからわかる。漆は笑っている。それは高笑いするものではなく困った顔をしながら苦笑するそれでもない。何にも当てはまらない。ただ薄っぺらい笑みを貼り付けているだけだ。
背筋を凍らせるにはその笑みは無意味なほど漆には殺気があった。たった10歳の子供が発するには釣り合わない殺気。



「――起、きて……っ」

「あんまりLEをなめない方がいいよ、おじさん」

「ゔッ!」



漆はおじさんの髪の毛を握り、頭を持ち上げて床に打ち付けた。
鈍い音がすると奥で鉄格子を勢いよく掴んだ音がした。



「おい漆……」

「おじさん、話を聞かせてよ」

「――っ……。そのままの意味だよ。LEに寄生者が紛れ込んでるって情報さ。それ以上は知らない……。寄生者同士で伝える情報だ。間違いない。……ぐ……」

「そう。それだけ?」

「ああそうさ! あってもLEなんかに教えるわけ――がぁっ」

「寄生者は仲間を大切にする。おじさんはこれ以上喋らないみたいだし、ついでに始末していいよね? 境」

「……好きにしろ。だが仕事を忘れるなよ。いいか?」

「戦うのがおあずけになったからって機嫌損ねないでよ」

「そうした原因のお前が言うな。まあとにかくあっちの男と女に手をあげないようにな」

「それは境でしょ?」



笑顔のまま漆はおじさんの頭をもち、首を捻った。










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通りの隅にポツリと寂しく設置された公衆電話に硬貨を入れた。受話器を耳に近づけながら数字のボタンを押す。



「はい、こちら子供相談――」

「LE六番目の境だ」

「最後まで言わせてよー! て、あれ? もしかして機嫌悪い?」

「ああ、最高にな。それより任務は達成だ。報告書は漆がいま書いてるぜ、リーダーさん」



電話の相手はLEの隊長である葉蝶だ。つまり私たちのリーダー。見た目は小柄な夢見がちの少女だ。極東人と西洋人のハーフで見た目は若いが私より歳上。

綺麗な声がふふふ、と笑った。



「お疲れさま、境ちゃん。欲求不満で今にも暴れだしそうな境ちゃんにわたくしからお仕事を授けましょーう!」

「戦えるんだろうな?」

「それについてはもうバッチリだよ。問題なし!」


リーダーさんの弾んだ声が受話器越しに聞こえる。