Coffee shop
 




帰り際、ついでとばかりに純がライフルで寄生者軍の軍人を狙撃した。銃弾をその身体に食い込ませた数はほんの少し。しかし寄生者軍の混乱を呼ぶには充分だ。指導者は目の前に居らず、そのような状態で仲間を狙われた。それこそ寄生者は仲間のために、何らかの行動を起こすだろう。復讐しようと犯人を捜したり、本部に連絡したり、動揺したり――。



「よし、任務は終わりだ。じゃあ純の教官を捜そう。俺も聞きたいことがあるしな」

「はいっ」



響は綺麗に血を拭き取りカバーをつけた槍をしまうと純の頭を撫でてくちもとを緩めた。

二人は大通りにでて彩の消えた方へ歩き出す。
そこは明るい清潔な路地裏。それなりに人通りもあり、普段戦闘場所に選択している薄暗い路地裏とはまったく別のものであった。
その路地裏は一本道。両側のコンクリートでできた壁にはそれぞれ店の裏口がある。



「教官、あちこちにある店の裏口に入っていたらどうしましょう……」

「いや、考えにくいだろう。そうすると人間と寄生者が一緒に働いているということになるんだぞ。……難しいだろ、共存は。今の戦争状態では、な……」

「……。では、どこに」

「取り合えずこの道を進むしかないだろう」



響に頷き、純はまっすぐ前を見た。

やがて行き止まりになった。正面には地下への入り口。近くに置いてある少し汚れた、それでもデザインが高級感を表す看板には「喫茶店」の文字。



「……店、か?」

「……たぶん、お店、ですよね……?」



眉を寄せる響に、首を傾げる純。
響は躊躇ったが、ここで困っていても仕方がないと地下へと続く階段を降りた。


照明はぼんやりとして、部屋一帯をはっきりさせていなかった。天井から床へ注がれる造られた光は部屋の隅を暗黒のままにしている。
部屋に置かれていたテーブルや椅子は荒れていた。脚は折れ、汚く、どれもこれももう使い物にはならない。
看板に刻まれていた喫茶店はすでに廃業していて、長く誰もここに立ち入った様子は見られない。

それを目の当たりにした二人はそれぞれどんな言葉を言えばいいのかわからなかった。



「あ」



純が小さく、本当に小さく、声を漏らした。

部屋の、限りなく暗闇に近いそこに人影を見つけたからだ。