催眠
 


暗くて冷たい、地下。
寄生者を保管しておく牢屋にて日が沈んだ深夜。私と漆が宣言通り張り込みをしていた。漆は夕方にすでに仮眠をとっている。私と違ってまだまだ成長する子供だからな。睡眠はとらせていた。



「ふあ〜」

「なんだよ、まだ眠いのか?」

「うん……。寝たりなかったのかな」



あくびをした漆は刀を持っていない。得物の持ち込みは禁止されているからだ。その件に関しては私も同じで、大鎌は持っていない。といっても見えないだけで実際には折り畳み式の槍を肌に離さずもっているがな。



「私が見てるから少し寝ろよ」

「……嫌だ」

「嫌だって、そんなんじゃあ戦っても足手まといだぞ?」

「だって、これは」



漆がいいかけたとき、私は目をこすった。
……あれ、眠い……?
そりゃ漆と違って寝てないが、三日三晩寝ずに戦うなんてこといままでよくあったし、そのときは眠くならなかったはずだ。ましてや今は仕事中。おかしい。そんなに私は疲れていたかな?



「睡眠薬だよ」



漆が言葉の続きを言った。
言った。



「は!?」

「境、気付かなかったの?ていうか、寄生者をなんだと思ってるの。頭の読むんだよ。寄生者に宣言なんかするから」

「面白いと思ったんだよ!睨むな!……くそ、つい忘れてた」



煙でどうとかってやつか。自分がLEだからってつい忘れてたいた。ああ、なんか弟の響にもそんなようなこと言われたことある気がする。今度から気を付けないとな。
……でも。



「薬には敵わねえ」



そう言って、私は目を閉じた。
タネをいうならこれは狸寝入りなんだけどな。睡眠薬の対策くらいついてる。しかもこの程度、軍でつかう薬より効果は弱い。

私たちの話し声がなくなり、静かになった牢屋では服をさする音しか聞こえない。閉じ込められている寄生者の服だろう。
そしてコツコツと響く足音。階段だ。いや、階段の上からだ。それが近付くということは、来ているのだろう。脱獄を手伝う寄生者が!



「なんだ」



聞いたことのある声、だ。



「LEに寄生者が紛れている噂は嘘だったのかぁ。いや、でも嘘じゃなくてこの嬢ちゃんたちじゃなかった、ってだけかもしれねえな」



声主は見るまでもない。
私たちを車に乗せてくれた、あのおじさんだ。



「なにそれ、どういうこと?」



隣にいたはずの漆はいなかった。漆は横を通り過ぎようとしたおじさんの足を引っかけ、転ばせ、その背の上に乗っている。殺意をむき出しにしながら、もう一度口にした。



「ねえ、どういうこと?詳しく聞かせてよ。……おじさん?」