依頼者のところへ訪問
「依頼者をここに呼ぶから嬢ちゃんたちは待っててくれるかい?」
「わかった」
おじさんに案内されて連れて来られたのは、ここら一帯の自治隊の本部。その応接室だった。私と漆はお茶とチョコレートを出された。おじさんがいなくなって、立っているのも疲れるからテーブルの前に設置してあるソファーに座った。 ここまで持ってきた武器を傍らに、私の隣に座った漆に話し掛ける。
「あのおじさんが依頼者じゃなかったのか」
「うん、そうみたいだね。てっきりあのおじさんが依頼者だと思ってたよ」
「そういやあ調べたんだけど、この自治隊は中年期の人間を中心に構成されてて、民間人ばっかなんだとよ」
「民間人がどうやって寄生者に対抗するの?」
「いや、この街にやってくる寄生者もあっちの民間人で、別に戦闘に慣れた奴じゃないらしい。たまに戦闘に慣れた奴が来るらしいけど、そういう奴は警察とかに任せてるんだってよ」
「ふうん。でも今回殺す寄生者が戦闘に慣れていないなんて訳じゃないんだから」
「わーってるよ」
漆は帽子を脱ぎながら私を見上げ、私は適当にあしらった。 そしてタイミングよくおじさんが一人の中年の女性を連れてきた。彼女が今回の依頼者だろう。互いに挨拶を交わす。おばさんだけ残し、ここまで案内してくれたおじさんは応接室から出ていった。
「今回の依頼者か?」
「はい」
「この自治隊に寄生者が混ざっている……っていう話だったな。詳しい説明を頼んでもいいか?」
「ええ。……この建物の地下に捕まえた寄生者を保管しておく牢屋があるんです。警察の審議を待って、南半球に送り返される寄生者とそのまま軍に送られて殺される寄生者が」
「そうなんですかー。牢屋って支部にあると思ってたよ、僕」
「ここ1ヶ月、軍に送られるはずの寄生者が逃亡しているんです」
「!脱獄か……?」
「……そうです。私たちも色んな手段で調べてみたんですが、どうしても犯人がわからないんです。信じがたいのですが、自治隊の人間が犯人ではないのか、というところまでしかわからなくて」
寄生者は南半球を中心に今も増えている。 あくまで寄生者は突然変異によって現れた者だ。私たちがいる北半球にも、突然変異でたまに現れる。それが今回のケースで、運悪く自治隊の人間が寄生者になってしまったというパターンなのかもしれない。まあ、寄生者が人間側の自治隊に入った、ということもありえるのだが。それは考えにくい。仲間を大切にする寄生者が仲間を捕まえる組織に入るとは思えないからな。
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