音楽番組を私と玉乃くんが一緒に見ていたときだった。 私の好きな曲が流れてつい口ずさんで歌っていると隣に座る玉乃くんがみかんの皮を剥きながらこちらを見ていた。
「?どうしたの?」
「……なんでもないよ。気にしない気にしない」
ひらひらと手を振る。玉乃くんはそれでも私から目を離さない。私といえば気になって仕方がないわけでして……。 口ずさむのをやめて玉乃くんに聞く。
「玉乃くんが見てるから気になるよ。どうしたの?なにか付いてる?」
「付いてるとかじゃないんだけどさ」
「?」
「……沙夜、歌がうまいなって」
「えっ?」
いま、なんて? 私の歌っていた鼻歌を誉めた?嬉しいな。玉乃くんは照れ臭そうに私に背を向けてみかんを食べ始めた。玉乃くんに誉めてもらえただけで私のテンションはあがり、心が踊った。誉めてもらえた!それがとても嬉しくてテレビの中でうたう私の大好きな歌手の綺麗な歌声でさえ私の耳に入らなかった。
「玉乃くん!私うれしいよ!」
「うわっ!?」
私がうしろからガバッと抱きつくと玉乃くんは肩を揺らして驚いた。
「私は最近しあわせだなーっ!」
「……千早に誉められた手とか?」
「そうそう!このまま不幸が普通の人レベルに落ちてくれると私嬉しいのにな」
「どうにかなると思うよ。その不幸とか」
「ほ、本当!?でもどうしてわかるの?」
そりゃ死ぬまで不幸なんて言ったらそれはそれで悲しくなるし、いつかなんとかならないと困るんだけど……。玉乃くんは自分の発言に自信をもっている様に見えた。
「ねえ、沙夜ちゃん。アンタが不幸なら僕はその逆だよ」
うん?聞いたことがあるセリフだ。 なんだっけ?
「僕が沙夜に言った言葉なんだけど、覚えてる?」
……。あ、思い出した!玉乃くんが強引に私の家に入れさせろって言ったときのセリフじゃん。
「沙夜はこのセリフを受け流してたみたいだけど、つまり」
「逆……。ちょ、ちょっと待って」
「待たなくても分かるでしょ」
「そんなこと言わない!……私が不幸体質だから、その逆ってことはつまり玉乃くんは幸運?」
「はい、よくできました」
「バカにしてない?」
「してないよ」
「でもちょっと待って」
「さっきも言った」
「玉乃くんは幸運体質なんだよね、私の逆で!」
「そうだよって、さっき言った――」
「よ、よかった……っ」
「なにが?」
「私のせいでちーちゃんが辛い目に遭ってたらって、怖くて……。だけどこれで安心だよね」
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