時刻は0時をすぎたばかり。

玉乃くんは、私の家にいる。
私の家について、お腹がすいたからと一緒にシチューを食べた。食べ終わったら今度はお風呂にも入って、布団を敷いて。気がついたら玉乃くんはうちに泊まることになっていた。

しばらく私一人だけだったこの家に誰かがいてくれることが嬉しかった。たまにちーちゃんも泊まりに来てくれるけど、やっぱり嬉しい。

幸せだなあ、なんて思っていた。



「って、ちがああああう!」

「沙夜うるさい」

「駄目だよ玉乃くん!家に帰らないと!!少なくとも連絡!」

「だから話はつけてあるって」



布団に潜ろうとしていた玉乃くんは眉間に筋をいれて明らかに不機嫌そうにしていた。玉乃くんは私の弟の掛け布団を二つに折って上半身を起こした。
私は私の布団から出て玉乃くんに詰め寄っていく。枕元に置いておいた携帯電話もちゃんと握りしめて。



「電話!しなさい!!」

「……しなくても」

「一応でもなんでもいいからして!私心配なの」



ずいっと顔のまえに携帯電話を突き出すと玉乃くんは嫌な顔をした。そんなに明らかに嫌な顔をしなくてもいいのに。せっかくの美形が台無し。
玉乃くんの顔はたとえ眉間にシワを寄せても崩れないほどの美形だった。モデルさんじゃないのかって、つい疑ってしまうくらい。モデルじゃなくても絶対スカウトされる!こんな田舎じゃそれは望めないけど都会に行ったらその成果は発揮されることだろう。



「わかった、わかった。仕方ないから電話してやるよ。まったく」



仕方ないと言いながらも結局要求をのんでくれる玉乃くんの優しさに触れつつ私は携帯電話を渡した。携帯電話を受け取った玉乃くんは布団の温もりから廊下へ出ていった。

私は普段一人で寝ている。静寂な家で一人で眠るのはとてもじゃないが安心できない。とても胸がざわめき、不安にかられる。泣いてしまうこともよくある。だからたまに泊まりにやってくるちーちゃんとは向かい合わせになって同じ部屋で寝ていた。玉乃くんはちーちゃんと同じく私と向かい合わせに布団を敷いている。私のわがままに付き合ってくれたのだった。口では「なんで僕が」とかなんとか言っていたけど。満更ではないみたい。
どこの誰かもわからない少年を家に泊めるなんて可笑しなこと。私はそれでも彼を許してしまった。

――きっと、弟と玉乃くんを重ねているのかもしれない。

頭を左右に振って、そんな考えを投げ捨てた。玉乃くんは玉乃くん。弟とは違うの!



「携帯電話ありがとう」



玉乃くんが帰ってきたみたいで、私に携帯電話を差し出した。私は携帯電話を受け取ってもとの位置に戻る。



「おうちの人はなんて言ってたの?」

「2週間、くらい……」

「ん?」

「2週間くらい泊めて。僕を」

「……え?」

「だから……っ」



玉乃くんが何度も何度も繰り返してから私はやっと理解した。
だって、あまりにも予想外だったもん。まさか……だって……ね?そんな展開になるなんて思うわけないでしょ?



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