私、九条沙夜は不幸である。



「……クビ、か……」



また仕事を辞めさせられた。原因はすべて私のミスだった。
大切な書類を無くしたり、契約会社の重要人の足を思いっきり踏んでしまったり、上司へ運ぶお茶を頭にぶちまけたり。
もう、足の指を使ってもたりないくらいミスをおかしたせいで、私はクビになってしまった。今回で何回目だっけ。……やめよう、考えたくない。


今夜もいつもと同じで暗い夜道を歩いて白いため息を吐いた。


こんな時のために私は今まで貯金をしてきたんだ。家族の遺産だってある。とりあえず餓死はしない。したくない。仕事を見つけるまでアルバイトをしてなんとか家計を保たせようと思う。我ながらいい案だ。



ゴンッ



「――ッいったぁー……!」



考え事をしてたら電柱に頭をぶつけた!痛い!
ヒリヒリと痛みを訴える頭を撫でると、もうそこには硬い膨らみがある感触が手を伝って感じられた。どうやら、たんこぶが出来てしまったようだ。たんこぶがあると頭の痛みもなんだか増している気がする。



「まあ、死ななかっただけまだいいかな……」



生まれてこのかた、私はまだ命の危機にたったことがない。どれだけ不幸なことが起こっても。あ、でも中学生の頃に自殺しようとしたことがあった。両親を同時に無くしたばかりの頃。両親まで私の不幸に捲き込んでしまったんだと自分を責めて責めて責めて責めて責めて。だから屋上から飛び降りて死のうと思ったのだけれど、いざ飛び降りようとフェンスを越えたとき服がフェンスに引っ掛かって飛び降りることができなかった。
頭を冷まして考えてみれば、両親を失って、もし私がその時死んでしまったら私の弟は孤独になってしまう。私は何を考えていたんだって思って、弟にたくさん謝った。弟は泣きながら許してくれて、私も泣きながら「ありがとう」って。

そんな弟も、六年前に行方不明なったっきり。



「きゃあっ!……うわ……、危なかった……っ」



転びそうになった。危ない危ない。
もうすぐ家だし、注意しながら帰ろう。













「……鍵、あいてる……?」



鍵を穴にさしたらドアが閉まった。もう一度鍵を回すと開いた。
……えっと、つまり、これは開いていたということ?嘘!空き巣!?
どうしようどうしようってなにも考えず辺りを見渡してたら家の中で歩く音がして、こちらへ向かっているらしいことがわかった。さらに動揺。
どこかに隠れなきゃ!でもどこに!?



「あ、おかえり」

「……へっ」



なんと、ドアを開けて私を迎えてくれたのは、空き巣ではなく幼馴染みで腐れ縁の夏野千早だった。通称ちーちゃん。



「ちーちゃん、どうして……?」

「お前がクビになったって聞いてさ。慰めてやろうと思ってシチュー作ってた。勝手にごめんな」

「ぜっ全然!むしろありがとう!」



私がそういえばちーちゃんは笑って「出来てるから食べよう」といってドアを大きく開けた。



「あ……。おかえり、沙夜」

「っただいま!ちーちゃん」



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