玉乃くんが天使の説明をしてくれた。
玉乃くんという天使ご本人曰く、天使にはまず肉体がないらしい。神様にも肉体はないらしいんだけど。ならどういうこと?って聞くと玉乃くんは真剣な顔で話してくれる。
「天使なんていうのは沙夜たち人間が勝手に言っているだけで名詞はないんだよ。全体的な名詞はないし、個別の名詞もない。 肉体がないならどうしてるかってことについて話すよ。僕たちは精神の塊。目に見えない意思がある。……『意思』だなんておこがましいかな。心もない。神様に創られて機械的に神様の元でそれぞれの役割を果たしてるわけで」
「で、でも、玉乃くん、心あるよ?まさか演技……とか?」
「ううん。これは本物。人間により近付くようにって神様が僕にくれた。僕みたいな天使は他にも地上にいるんだよ」
「……」
信じられない話だった。いままで玉乃くんと接してきた私は、彼が人間のような人だって言うことを知っている。突然、そんな漫画みたいな非現実的なことを言われてもまったく身に染みない。まるでなにかの映画を見ている様。呆けることも混乱することもなかった。目の前の現実を現実と思えないわけではない。けれど、どこかそれを客観的に傍観的に眺めていた。
「『人は平等であるべきだ。例え容姿に問題があってもそれを補う何かがあるはずだ。例え全てに秀でる素晴らしい人でも人望に問題があるかもしれない。人は孤独では生きていけない』」
「?」
静かにしていたちーちゃんが眉を潜めた。 今まで動きを見せなかったちーちゃんは私と同じく現実を受け入れることも拒絶をすることもないのか、先に玉乃くんから話を聞いていたのか。たぶん後者が有力だけど。そんなちーちゃんが眉を潜めたということはいまの玉乃くんの台詞は聞いたことがないということなのかな。
「沙夜は不幸過ぎる。他と平等じゃない。不平等。沙夜は周りを無くし過ぎてる。沙夜は何か悪いことをした?してないよ。普通に過ごしていただけなのに。不平等だよ。友達も両親も弟もいなくなって沙夜には千早だけ。その千早もいつか自分の不幸できえてしまうんじゃないかって怖かったんじゃないの?」
「……っ玉乃くん、それ……!」
「沙夜、そんなことを……」
「だから、僕がこうやってここにいる。沙夜の不幸を中和させる僕の幸運で、これ以上沙夜を泣かせない。泣いている沙夜を見たくないから、こうして僕がここに居る。僕は絶対にきえない。千早もけさせない。沙夜はもうなにも失わない!」
胸が熱くなっていく。 じわじわと何かが滲んで、込み上げてきて、叫びたくなる。なにを叫びたいのかわからない。抑えられない。だんだん鼻で呼吸が続けられなくなって、目が役に立たなくなって。溢れていく滴が頬を伝って下に落ちていく。
現実味がない話。 受け入れることも拒絶をすることもできない話。 呆けることもできない話。 映画を眺めるような話。
現実味があるこの感情は隠すこともできない。 受け入れることも拒絶をすることもゆるされない。 呆けることもかなわない。
「……だから、2週間だけじゃなくてずっと僕をここに置いてくれないかな……」
孤立した世界のような言葉に、私は手を伸ばして、重ねて、答えた。
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