「なあ」

「んー?」

「玉乃のことどれだけ知ってる?」

「どれだけって、どういうこと?例えば?」

「誕生日とか、血液型とか、出身地がどこなのか、とか」



そういえば知らないなぁ。玉乃くんのこと。
私からみてこたつの正面に座って温まっているちーちゃんは、キッチンに立つ玉乃くんを見る。玉乃くんはせっせと夕食を作ってくれている。



「わかんない」

「わかんないって、お前……。おなじ屋根のしたに暮らしてるくせに。そりゃ、あと一週間も経たないであいつはいなくなるけどさ……」

「え!?もう一週間きった!?うそ!」

「本当」



もうそんなに経っていたっけ!?ぜんぜん気が付かなかった。
……そっか、一週間経ったら玉乃くんはいなくなっちゃうんだ。寂しくなるな。こんな家に、また独りぼっちになるなんて、苦しい。たまにちーちゃんが遊びに来てくれるけど、慣れはじめてしまったこの生活を手放すことが怖い。玉乃くんには行ってほしくないのが本音なんだけど、でも、玉乃くんには玉乃くんの帰る場所がある。私の感情なんかに振り回されちゃ彼に悪い。それに私の体質のせいでたくさんの人を不幸にしたんだ。これ以上誰かを捲き込みたくない。

これ以上誰かを捲き込みたくない、だなんて漫画でいう台詞みたい。



「玉乃くん、誕生日いつなんだろう」

「僕の誕生日が気になるの?」

「うぇっ!?」

「落ち着け、沙夜。玉乃も急に沙夜の背後から現れるな」

「気付かないほうが悪い。僕しらない。そんなことより、カレーできたよ」



私のエプロンを着ていた玉乃くんはそれを脱ぐと私たちの分のお皿やスプーンを棚から出しはじめた。
私のエプロンを着ていた玉乃くん、可愛かったからもうちょっと着てほしかったな、……なんて本人に言ったら叩かれるよね。うん。言わないでおこう。私の心の中だけにおさめておこう。



「ね、ねえ玉乃くん!」

「んー?なに?」

「玉乃くんの出身地ってどこ!?どこの国の人?」

「ぶっ」

「おい、なにむせてるんだよ。大丈夫か?」

「だ、大丈夫……」

「え、え、な、なんか、ごめんね。玉乃くん平気?」

「もう平気」

「つかむせるところなんてあったか?」

「千早と一緒にするな。日本の四字熟語であるじゃん。十人十色って」

「いや、まあそうだけど。って、ちょっ」



玉乃くんは突然ちーちゃんにお皿とスプーンを押し付けると二階へ駆けあがって行ってしまった。どうしたんだろう。
押し付けられたお皿やスプーンをテーブルに並べるちーちゃんの手伝いをしながら二階へいなくなった玉乃くんが気掛かりで仕方がなかった。

もうすぐで、彼がここからいなくなってしまう。



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