「みてみてちーちゃん!」
「どうした?って、これ……玉乃じゃん。玉乃がどうかしたのか?」
ちーちゃんの前に私がつき出したのは美形でありながら少年らしく童顔の玉乃くん。玉乃くんは不服そうな表情をしているが私はそれに構わずちーちゃんと私のあいだに玉乃くんを挟んだ状態で会話を続けた。
「ちーちゃん、あのね。玉乃くんは幸運を引き寄せる天使のような存在だったの!」
「さ……!?」
「天使ぃ?」
満面の笑みでちーちゃんに言えば玉乃くんは肩を揺らして勢いよくこちらを向いて目を丸くしていた。かと思えば正面にいるちーちゃんは眼鏡の奥から不信の目で私と玉乃を何度も往復して忙しそうだ。
「と、とりあえず中に入れよ」
ちーちゃんの家の玄関にいた私たちはちーちゃんに誘導されて中に入った。 ちーちゃんの部屋に案内されて慣れたように部屋のベッドに座る私と落ち着かないで周りをキョロキョロと見渡す玉乃くん。ちーちゃんは玉乃くんの頭を撫でて「落ち着けよ」と笑いながら言う。玉乃くんはそれがお気に召さなかったらしく、眉間にしわを寄せた。
「で、詳しい話は?」
「あ、うん。私、最近幸せだと思わない?手の傷とかないし」
「そうだな。運が悪いこととか起こらないよな。この前の電車とか」
「そうそう!つい昨日その原因を発見したの!」
私の続きを待つかのように、少し口を閉じたちーちゃんは、私がまた口を開く前に視線を玉乃くんに送った。
「……まさか、玉乃?」
「正解ぃっ!」
バチンっとウィンクする。玉乃くんはドン引きしてたけど、そんなことよりちーちゃんだ。ちーちゃんもちーちゃんで、舌を出してウィンクしたままの私を引いていたが玉乃くんにも注目をしていた。
「電車とか、その原因は玉乃?」
「なに、千早。文句あるわけ?」
「いや、文句というか、信じられないなと。いままで沙夜の苦しんでたことが全部、玉乃の登場で解決しそうだし……」
どこか、せつなげに言う。 その言葉の裏にはきっと、私の弟を心配してくれているちーちゃんがいるんだろう。実際、私も弟を気にしている。玉乃くんの強運があれば、もしや、って。
「僕が沙夜の家にいるだけで沙夜が幸せになる、だなんて思わないでよ」
少しムッとした表情の玉乃くんは腕を腰に当てて私たちをみた。
「僕は座敷わらしじゃないんだよ。ましてや全てを左右する神様じゃない。アンタたちでそういうことは努力してもらわないと」
なんの雑音もない部屋に、清々しく、綺麗な玉乃くんの声が響いた。
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