SSS


 

事が片付き、落ち着いたら再び集会を開くことになり、一旦解散となった。ツバサは自分の書斎へ戻る最中、リャクに話しかけられた。ツバサとリャクは殺し合いを所構わず始めてしまうような犬猿の仲である。とにかく喧嘩。会えば喧嘩、視界にはいれば舌打ち、同じ場所にいれば喧嘩。であるから、ツバサはリャクに話しかけられて驚いた素振りをみせた。


「貴様に用がある」

「俺は用がないからサヨウナラ」

「真面目な話だ。貴様個人には毛頭も興味はないのだが、組織が関われば話は別だ」

「……廊下で立ち話をするのは止めよう」


ツバサは隣を歩いていたリカに合図する。リカはその意味を汲み取ると、頭を下げてから先にツバサの書斎に戻ることにした。廊下に残るは犬猿の仲。


「適当にそこの部屋を使おう」


ツバサが指をさしたのはたまたま近くにあったドア。そこは確か休憩室である。先にツバサが入り、中にあるソファに遠慮なく座った。リャクも続き、ツバサの背後にドアがある対面の位置に腰を落ち着かせる。

リャクの補佐としてナナリーは全面的に優秀だった。縁の下の力持ち、誰かを支える役がナナリーの肌に合っているようで、彼女はボス補佐としてその支援は優秀だったのだ。そんなナナリーが今はいない。いつも無愛想なリャクの隣で日だまりのように笑っていたのに。彼女がいないせいか、リャクの放つ威圧感は容赦がない。
しかしこの日、リャクは死ぬほど嫌いなツバサを前に荒れることはなかった。彼はそれこそ視線だけで人を殺せるような目付きでツバサを睨む。まるで龍のようだ、とツバサは思った。


「で、用件は?」

「ふざけるな。心当たりがないとは言わせないぞ。『黄金の血』とはどういう繋がりだ」

「裏切者だって思ってるわけ? 俺が?」

「貴様がその態度をとるのならそれでも構わん」

「用件は終わり? 俺、仕事があるから――」

「なぜ貴様は『黄金の血』の情報を入手できた?」


とっさに、ツバサは息を詰まらせてむせた。そして苦笑する。笑い声をあげるツバサにリャクは眉間のシワを深くした。


「いくら俺が嫌いでも、それは疑いすぎなんじゃない?」

「貴様が怪しいからだ」

「リャクの妄想だよそれ。あー、やだやだ」

「っ貴様」


すぐに沸点をむかえてしまうところをリャクはなんとか抑える。机を叩こうとした拳を握り、フルフルと震わせた。怒りに耐える様子をツバサが口角をあげたまま嘲笑するように見ている。


「お前は自分が無実だというのだな?

「だって俺、裏切ってないし」

「ならば足枷を着けても構わんな」

「――……、は?」


刹那、リャクは唱えた。


「“詠唱再開”」