SSS


 

「多重能力者について話してるとキリがない。情報のことを話すよ」


リャクは舌打ちをし、ウノが催促をした。寝ているのか起きているのかわからないカノンはなんの反応も示さない。


「構成員はみんな高校生。ここらへんじゃ見掛けない制服を着てるから目に止まりやすいと思うけど。一人は明。鉄鋼支配能力をメインに使っている少女。戦闘員とは思えないほど一般的な明るい子だね。鉄鋼支配にも、視界共有と幻を扱う異能をもってる。二人目は光也。召喚師で風と異属性である他に、聴覚伝達の異能まで確認できた。三人目はゆうり。こっちも空間歪曲と能力上昇まで確認されてる。四人目は瑞季。封術師であることまではわかってる。五人目は美紀。光也の実の姉で、同じく召喚師。闇と異属性。他に復元能力を持っている」


ツバサが嘘の情報を話すとは思えない。リャクは密かに視線を下に向け、額に手をあてがった。構成員はたった数人。それなのに面倒なことが付きまとう。


「――ところで」


カノンが口を開いた。どうやら起きていたらしい。するりと滑るようにカノンの視線がツバサを突き刺した。ツバサはいつもどおりの胡散臭い笑顔を浮かべながらカノンの言葉を待つ。


「お前はどっち側だ?」


それはツバサが組織を裏切るか否かを直接聞き出していることを意味している。裏切るつもりであるならその意味がわかるだろう。裏切る気が無いなら意味は分かりにくい。カノンはツバサにかまをかける。さあ、どう答える。


「それは俺に裏切者の疑惑があるから言っているの?」


直球で反復した答えに場がしんと静まった。ツバサは笑っているのに、その瞳はどこまでも冷たく、見るものの血液を凍らせる。
カノンは懐から真っ黒ただ一色に染まったカードを取り出して机に置きながら鼻で笑った。


「聞いているのは我だ」

「じゃあ答えるよ。時と場合に寄る。私利私欲の塊みたいなカノンに追及される日が来るとは思わなかったよ」

「それはツバサが裏切者ということか」

「直接聞いてくるね。別に俺はこの組織を裏切ってなんかない。俺についてきてくれた物好きな子たちを棄てるわけがない」


部下のことを指すその言葉だけは低い声で真面目に応答した。すぐに薄っぺらい笑顔に戻る。


「なら安心した。不老不死を打倒する手段を我は知らんのでな」

「安心してよ。俺がこの組織を裏切るときは……」

「失礼します!」


短いノックと同時に重たい扉が開かれる。大きな音をたてて開かれた先にはツバサの補佐であるリカが慌てた様子で声を張っていた。


「襲撃です! 恐らく『黄金の血』! ナナリーが重傷を負っています。現在ナナリーとナイトが応戦していますが……、リャク様!」


重傷を負ってもなお戦闘を続行するナナリーを制止させるには、その上司であるリャクの声が必要だと判断したリカだった。リカがリャクを見たときにはすでにリャクは姿を消していた。


「リカ。それってどういうこと? 状況は?」

「ツバサ……っ。『黄金の血』の美紀が襲撃を仕掛けて来たんです。先ほど四階の会議室に唐突に出現しました。ちょうどそこで会議をしていたナナリーと他数名の研究者かいましたが、ナナリー以外死亡したと思われます」

「まさかナナリー、一人で召喚師の相手を?」

「恐らく」

「……なんて無茶な」


封術師とは、万能を封じる力を有する。それは強力で、異能者のなかでもその力の強さは群を抜く。しかしその分、詠唱が極端に長い。同じく詠唱を必須とする魔術師が唱えるそれの何倍も掛かる。そのせいか戦闘を行う際は単独で行うのは自殺行為なのだ。詠唱をしている隙に殺されてしまう。
前衛が能力者とするなら、中衛が召喚師、後衛が魔術師、さらに後衛が封術師の順になる。召喚師は詠唱を必須とせず、ほぼ瞬時に事を成せるため、数多い封術師の天敵ともいえよう。


「経過は了とした。で?」


カノンはもう一枚のカードを懐から出す。


「ナナリーは重傷。美紀も深手を負っています。駆け付けたナイトと共に応戦していますが、このままでは衰弱で死んでしまいます! だからツバサ、早く来てくれ!」


リカにツバサが頷き、すぐに立ち上がった。集会はうやむやのうちに解散となってしまったのだった。