SSS


 

時が止まった。そんな錯覚を感じてしまうほどの沈黙が鳴った。瞬きや呼吸を忘れてしまうほどの驚きに誰もが視覚情報を処理できない。その間にもツバサは自分の席へ歩む。椅子を引く音で真っ先に我にかえったのはリャクだ。


「なっ、なぜ貴様がここに」

「なぜって……、集会なんでしょ?」


当然のように答えるツバサにリャクは唖然した。「いや、まあ……、そうだが」と言葉を詰まらせている。ツバサはいないものとして話を進めていた上、ちょうど彼が裏切者ではないかと話していた最中なのだ。タイミングを見計らったような登場に、いっそわざとなのではないかと疑ってしまう。


「いやいや、ツバサ。『黄金の血』に残ったと聞いたぞ」

「いつまでも敵陣にいるほど能天気じゃないよ。俺。……ソラはみつからなかった。けどアジトそのものが異能で造られているからどこかに隠し部屋があってもおかしくはないね。次回潜入するなら探索系の異能者を連れるべきかな」


スラスラと報告が流れる。呆然としている間にツバサは集会のなかへ溶け込んでしまった。


「ソラは見つからなかったけど、情報なら手に入れてきた」


ツバサの言葉に、いままで呆然としていたボスたちは目付きをかえた。さすが諜報部というべきか、本業に関してはこと欠かさなかった。
ゆらりと揺れていた蝋燭の火は規律正しくなる。


「『黄金の血』の構成員はわずか五名。しかも誰もが若い十代後半の子供。ただし油断は出来ない。厄介なことに多重能力者らしい」

「馬鹿な!!」


声をあげたのはリャクだった。彼は異能者について絶えず研究をする人物だ。現代の異能者については世界で一番、誰よりも詳しい。そのリャクがツバサの発言した多重能力者を刹那に否定した。


「人間の首は真後ろまで回らないのが当たり前だ。死んでしまうからな。多重能力者の存在と言うものはそれくらいありえない」


異能者は四種類に分けられる。能力者、魔術師、召喚師、封術師。魔術師と召喚師は属性を最大二つまで習得できるが、原則として異能者は一種類の異能しか持ち得ない。それは首が真後ろまで回らないように、それ以上の力は持てないのだ。異能者の異能の核は脳だ。異能を持ち、制御するには脳の膨大な処理を扱う。そのため、異能者は無能者より短命であるということが証明され、二つ以上の異能は脳が処理できずにパンクする。
リャクも以前は多重能力者の実験をしたことがある。無理矢理、被験者に二つ目の異能を与えた結果、暴走し、肉片になるまで血を吹き出し、最後にはただのミンチになったことをよく覚えている。多重能力者は存在しない。
多重能力者は存在するわけがないのだ。


「頭の固い奴。現代異能者を研究する奴は、これだから長年にわたって考古学者と相容れないんだよ」

「何?」


リャクはピクリと眉を動かす。それを無視し、ツバサは手にいれた情報を語ることにした。