SSS


 


「集会を始める」


蝋燭の明かりだけの薄暗い部屋で男の声が開始の合図をした。蝋燭の明かりに照らし出されるのは暗殺部ボスのウノ・ヒエンズ、研究部ボスのリャク・ウイリディアス、傭兵部ボスのカノン・レザネードの三人だった。空席は諜報部ボスのツバサのみ。


「ソラが誘拐された」

「フン、先の契約者二人と言い……、暗殺部はずいぶん足下がお留守のようだな」

「っ!」

「おちつけウノ。カノンも挑発するな」


集会はカノンの挑発から始まった。
ウノはすぐに怒りを冷まし、カノンは腕を組んでまぶたを閉じた。


「闇属性から報告を受けて、今後の対策のための集会だ。貴様らの喧嘩のための集会じゃない」

「いつも奴と喧嘩していたではないかリャク。ツバサがいなくなってからすぐに自分を棚に上げるのは良くないな」

「っなんだと、死人が!」


手のひらで机を叩き付け、リャクは立ち上がった。椅子が転がる音が響き、蝋燭の明かりが揺らいだ。こんど中立に入ったのはウノだ。転がったリャクの椅子を異能でふわりと浮かせ、丁寧にもとの位置へ戻してやる。
小さな人形の姿をしたウノは年期の入った落ち着いた声で宥めると、やっと集会の本題へ入ることに成功したのだった。


「ツバサとソラ、そして『黄金の血』について」

「オリジナルはオレの研究対象でもある。このまま放置することはさせんぞ」

「研究うんぬんは私には分からんが、ソラは私の大切な仲間だ。ソラの救出は確定。それで構わないな?」

「異論はない」


本来なら組織の一人や二人程度、切り捨てても問題はない。巨大ともいわれるこの組織はいちいち捕まった者のために動いたりはしない。だが、ソラ・ヒーレントの場合、そして先に捕まっていたラカールとチトセの場合は別になる。
ソラには習得の難しい「死」属性の魔術の呪いが掛けられている。異能を研究するリャクにとってソラは貴重な研究素材。そして仲間を大切に思うウノにはかけがえのないソラだ。カノンにとってはどうでもいい存在なのだが、救出にデメリットはないと確信している。


「ソラはいいが……、問題はツバサだな」


ウノの言うように、彼らが直面している問題はツバサなのだ。ツバサがあやしい。ツバサは『黄金の血』と繋がっているかもしれない。そんなあやふやな報告をここにいる三人のボスは受けている。

誰も確信はない。あるはずがない。
ただ、ツバサは必要以上に情報をもらさない。諜報部のボスならば当然のことかもしれないが、それはツバサを疑う要因にもなってしまっている。『黄金の血』がツバサと接触しようとしていたことはボスならすでに気づいていて当然。だからこそ、ツバサは裏切者なのではないかと思われている。


「ツバサがこのまま戻ってくるかどうかもあやしい」

「ウノに同感だ。しかし確信がない。思い込みで無闇に行動はできない」

「ではどうする。待つのか? ツバサが帰るのを?」

「いや。オリジナルを救出する。その際に探りを――」


いつも通りカノンは聞きに徹し、ツバサのいないなかウノとリャクのみが話を進める。そのなか、コンコン、と落ち着いたノックがした。集会の最中、外部からの妨害は基本的に禁止とされている。ピタリとウノとリャクは話を止めた。カノンとリャクはなにも言わないのでウノが入室を許可しようと喋ろうとした。しかしその言葉が紡がれる前に、堂々と扉は開けられる。

それは唯一、この集会に参加できる者の自由奔放極まる行動に他ならない。


「ごめんごめん、遅くなった」


ふわりと空に浮かぶ雲のように掴めない態度で入ってきたのはツバサだった。