SSS


 

「で?」


明たちが揃ってオレの前に現れた目的はなんだというのだ。目の前で雑談でもするのか。人質の前で。明はその名の通り悪意のない明るい笑顔を浮かべるが、腹の中は真っ黒に染まっているのだろうか。悪趣味だ。本当に悪趣味だ。


「聞きたいことがある」


簡潔に答えたのはゆうりだった。ゆうりは明を足の踏み台にして、オレを見下ろしながら続ける。


「お前の知っているなかで一番強い魔術師は誰だ」

「……は」


スッカスカの記憶しかない今のオレに聞かれても困る内容だった。どう頭を捻ったところで期待に添えることのできる答えを返せる自信がないのだが。さて。どう答えたら良いものだろうか。


「待ってゆうりくん。それはもうツバサくんが教えてくれたよ?」

「ツバサ、その魔術師のことかなり嫌ってるみたいだったろ。改めて第三者に聞かねえと分からん」

「……たしかに」


瑞希は納得して、ゆうりに向けていた目線をこちらに向けた。


「ねえ……ちょっと待った。……ツバサ?」


なぜツバサと会話している?
いや、そもそもなぜ彼と会っていて、彼を親しそうに呼ぶ? ツバサはうちの組織のボスだ。敵組織になぜ?
……一つの可能性が浮かび上がってゾッとした。

まさか、ツバサは裏切者なのだろうか。

信じたくはないが、その可能性が否定できない。むしろ、ここにきて否定する要素が徐々に消えつつあるのは明白だ。


「いや、先に質問したのは俺だ。そのあとなら答えてもいい」

「……」


小さく舌打ちをした。質問という質問を禁じられ、問いに答えることのみを求められる。
魔術師の名を出したところで不利益になる話ではない。スッカスカの記憶から魔術師に関しての記憶を一生懸命に探りだした。


「……魔女……。いや、狂研究者のリャク・ウィリディアス……」


ぽつり、と呟くように。その言葉を待っていましたと光也は身を乗り出した。明の顔つきが真剣そのものとなり、身体が強ばっている。

ああ、そうだ。リャク・ウィリディアス。うちの組織の研究部ボス。不可能とされた魔術師の属性を新たに開発したは歴史上に名を残す正真正銘の天才。新たに開発した属性は「天」。いまだにその概要は不明。属性開発とは、石器時代の人間が空中都市を開発したくらいの発展ぶり。不可能の域。可能性はただ0のみを弾き出すような域で、彼は歴史上ただ一人の属性開発成功者。しかも、その研究を児童期に完成させた。いままでどれだけの魔術師がその研究に時間を費やし、無駄な時間を過ごしたことか。リャク・ウィリディアスはそれら全てを覆した革命家。そして彼の天才ぶりは研究の面だけで留まらず、魔術師としての技量もまた天才だ。詠唱を必須とする魔術師であるのに最下級、下級魔術を無言で、刹那に展開する。それこそ、手になにも持っていないのにノートに文字を書くという奇跡に等しい。
彼は、まさに魔術師としてはいつの時代でも筆頭をいく天才だろう。


「そいつの概要は」

「天才。その一言に尽きる。むしろ最上の『天才』を超える言葉があったとしても彼を表現することはできない」

「ツバサもそんなようなことは行っていたな。詳しく」

「質問には答えた」

「ッチ」


ゆうりは舌打ちを隠しもしない。顔をそらし、眉をひそめ嫌そうな表情を作る。そんなゆうりの様子から、瑞希がオレの質問に答えてくれるようで、そっと口を開いた。


「ツバサと私たちは――」


そして、邪魔が入った。