SSS


 

明が勢いよくドアを開けた。その隣には光也がおり、目線の先にはソラを捕縛した美紀がいる。ソラは無造作に床に投げられ、意識を失っていた。明はソラへ駆け寄り、髪をかき分けて彼の様子を見た。



「ただ眠らされてるだけみたいだな」

「……そっか、良かった」



光也もソラの様子を見ていて、診断する。安心した明はすぐに美紀を睨み付けた。美紀は無言で明を視界に入れる。ソラの上半身だけ両手で支えようとしたが、重く、明の代わりに光也がもった。



「なんでこんなことしたの」

「怒ってるの?」

「だって私たちの目的はツバサ。ソラくんは関係ないでしょ?」

「人質を取られてしまったからよ。餌がないと釣れるものも釣れないじゃない」

「もっと他の方法があったんじゃないの!」

「他って何? 私の方法はこれよ。手荒だろうがなんだろうが、帰るために仕方のないことだと思うわ」

「関係ないソラくんに危害は加えないで」

「努力するわ」



珍しく怒る明に少々驚かされつつも、美紀は頷く。
明の善人な降るまいに美紀はため息をついた。仲間ではないのだからどうだっていいじゃないか。そんな考えをもち、仲間のことは尊重する美紀は明に譲歩する。「帰る」までの仲間だが。



「釣れるものって?」



そんななか、明でも光也でも美紀でもない声が響き渡った。
その声は明が待ち望んでいたもの。会いたいと、この場の誰もが願った人物のものだった。作り物のように綺麗な金髪碧眼と端整な容姿が特徴的な青年。不老不死であるがゆえ、その豊富な知識を明たちは求めていた。



「ツバサ!?」



声を張り上げたのは光也だった。ピクリとソラの眉が動き、すぐに口を手で抑える。声を掛けられたツバサは口元で人差し指を立て、「しー」とジェスチャーする。ツバサの後ろからひょっこり瑞希とゆうりが姿を見せた。彼らがツバサを案内したと解釈するのにそれほど時間は掛からなかった。



「あら、釣れてたの」

「可愛くない」



美紀は腕を組み、ツバサは苦笑をもらす。
「美紀」と光也に話しかけられ、美紀はすぐに光也に目を向けた。



「ツバサがいるならソラは返してもいいんじゃないか?」

「……そうね」

「いや、どうだろう?」



美紀が申し訳なさそうに顔を暗くしたが、ソラを返すことに疑問の声をあげたのはツバサだった。明が眉を下げる。



「ツバサくん、それってこの子に私たちをどうにかする力があるってこと?」

「利用価値があんのか?」

「ゆ、ゆうりくん、その言い方は……」

「間違ってねえだろ」



困り果てる瑞希にそっけなく、ゆうりは顔を反らす。ツバサは振り向いて、「そういう意味じゃなくて」とソラに力があることを否定した。



「うちの組織にはさ、優秀な魔術師がいるんだよ。まあ、そいつが今回の事故の原因だったりするんだけど。そいつをここへ引っ張り出すにはここにいる誰よりもソラが適任だと思うんだよね」

「その魔術師がいれば俺たちは帰れる……?」

「光也の言うとおり。その魔術師と、美紀、光也がいれば帰られる。確実に」



そのとき、うっすらソラの意識は戻っていたが、まだ覚醒できておらず朦朧としていた。そのせいで、ここがどこなのか、誰が何の話をしているのか、ほとんどわからなかった。そのなかで唯一分かるのは「帰る」。なぜその言葉を繰り返すのか、意識を覚醒させようとした。しかし何者かの異能で再び強制的に眠りに落とされる。次に目が覚めたときは意識が覚醒しており、そこが殺風景でなにもない部屋だということを嫌でも理解できていた。