SSS


 

ソラとルイトがツバサを置いて先を進んだあと、ツバサの前に二人の男女が現れた。
黒髪の大人しげなおさげと、優しそうに垂れる目付きが特徴的な少女。校則にしたがった程よいスカートの長さと、派手などない落ち着いた少女だ。その少女の後ろには目付きが非常に鋭い少年があとを着いていた。学校の制服を少し着崩し、教師に注意されるかされないかの微妙なラインを行く。そういう意味では頭の良い少年だ。



「ひさしぶり。瑞希、ゆうり」



ツバサはまるで、旧友に再会したかのようだった。敵であるはずの少女と少年――瑞希とゆうりを前にして、敵意も殺意もなかった。本来はあり得ないことだ。敵が目の前にいて何もしないとは、すでに負けているも同然。命を差し出しているようなものだ。たとえ不死の視であれど、傷つけ合う敵同士であるならば、敵意を向けないのは可笑しい。おかしいのだ。



「捜したぞ、ツバサ」

「私たち、ここにはツバサくんしか頼れる人がいないんだから……」



おかしい。客観的に彼らを見るものがいるなら、それを呟くだろう。そして、ツバサにこういい放つはずだ。

――裏切者。

と。



「ツバサ、なんで今まで引っ込んでたんだよ」

「そう怒らないでよ。俺だってボスやってたんだから忙しいんだって」

「だからって音信不通はないだろ」

「うちが諜報部って知ってる?」



ゆうりの怒りを含んだ声は止まない。短気なゆうりを抑えるように瑞希が急いで間に入った。その瑞希の慌てる様にゆうりは一度黙る。



「ま、まあ、こうしてツバサくんが来てくれたんだから良かったよ! ね、ゆうりくん」

「遅ぇよ」

「あ、えっと、それにしてもツバサくん、大きくなったね! まるで年上の大人みたいだよ」

「もともと年上だったろ、ツバサ」

「ゆうりくん!?」

「……悪ぃ」



ゆうりは拗ねるようにそっぽを向いた。ゆうりは瑞希に弱いようで、それ以上はなにも言わなかった。ツバサはそれらを、ほほえましく見守る。懐かしい人に会うような、感慨深い表情を浮かべる。



「それにしてもツバサくん……、本当に大きくなったね。久しぶり」

「久しぶり、瑞希」

「この前まであんなに小さかったのに。……この長い間、色々あったんだね」



17歳の瑞希がツバサを見上げ、ポンポンと腕に触れると、今度は服の下にある固い筋肉に驚いた。そして子供の成長を喜ぶ母親のように、どこか照れ臭く笑って見せる。



「瑞希、今は俺たちの状況についてツバサに聞かないとまずい。廊下にいつまでも立っていられないぞ」

「あっ、そうだった。ツバサくん、明ちゃんたちに会って貰いたいんだけど……」

「それはもう、喜んで」



ゆうりと瑞希が案内のために先を歩く。ツバサはその後ろを静かに付いていった。どこかで血管が切れ、充血し、そして驚異的な治癒能力で完治させるというループを一人でずっと行いながら。