SSS



エレベーターに乗せられ、オレがボタンを操作した。どうやら用があるのは八階のようだ。エレベーターの中ではツバサは無言で、黒色に塗られた壁をただ見ている。

――途端。
オレの左腕に痛みが走った。任務終了時にも感じた激痛が、鋭く左腕を突き刺す。容赦ない激痛に声がもれそうで、左腕を抱えたくなるが、ツバサに余計な心配をかけたくない。ここまで世話をしてくれて良心が働いているのか、思い出していない過去になにかあったのか。
どっと冷や汗が吹き出す。まだここは四階。ああ、なんだか目眩までする。頭がくらくらしてきた。左腕の激痛に呼応したのだろうか。



「ソラ、八階に着いたよ」

「あ、ああ――うん」



平然を装うのが精一杯。いや、それすら辛い。奥歯が砕けてしまうくらい食い縛った。運が良いことに、ツバサは前を歩く。後ろに目がついていない限り、バレない、はず。
八階のエレベーターを降りたすぐそばにある部屋の鍵を開けて、ツバサはオレを中に入れた。意識が朦朧としはじめたオレはツバサの言う通りに中に入り「好きに寝ていいよ」という言葉に甘え――ん? 寝る?
さすがにオレは聞き逃さなかった。車が三台くらい、詰めれば四台くらい入りそうな広さの部屋の出入口付近でオレは立ち止まった。
ツバサはドアを閉めて内側の鍵を掛けた。



「気付かないとでも思った?」



と言って、ツバサはオレの左腕を指した。気付いていたのか。降参だな。オレはソファに寝転ぶ。その前にコートを脱ぐように指示されたのでそれに従った。
ああ、体が重たい。左腕が死ぬほど痛い。

「失礼」と始めにことわって、ツバサはオレの左袖を捲った。現れたのは、呪い。
左腕を埋め尽くさんとばかりに広がる刻印。刻印は訳のわからない黒い文字が大半。これが、オレに課せられた呪いか。



「ああ、これは酷い。この世界に戻った反動かもしれないな」

「……死ぬの?」

「今すぐには死なないけど、目が赤くなったら覚悟した方がいいかもね。今のソラは綺麗な青をしてるけど、呪いの侵食が進めば赤色になる」

「目の、色が……赤? なんで、目?」

「内蔵から呪いの影響を受けて寿命が縮まるんだよ。眼球だって内蔵の仲間。ちなみに唇も内蔵だったりするんだよ」



ツバサはオレの左腕を撫でた。オレの目も、自然とツバサの手を追う。
――驚いた。
刻印が揺れているのだ。オレの左腕が震えているのではない。一つひとつの文字が、この迷惑極まりない激痛をもたらしてくれているのだ。



「ソラ」



ツバサの手が、汗で濡れたオレの頭へ伸びた。オレの両目を一度覆いきってしまう。
そして、オレは、何とか平然を保っていた力を手放して、意識を暗い闇へ沈めた。