医務室



医務室とは、なんだったのだろうか。
ポカンと足を止め、医務室を見渡す。ここが、オレの目が覚めた部屋と同じだと思えないくらい乱れている。
ベットは破壊され、備え付けの椅子は変形し、棚は木屑となっている。恐らく棚のなかに入っていただろう薬品は床で散らかっており、跡形もない。壁には何か獣が引っ掻いた跡があり、一体ここでなにがあったのか分からない。



「リカ」

「ああ、分かっている」



ツバサがリカに一言伝えるとリカは魔術の詠唱を始めた。その間にツバサは医務室のなかをズンズンと進んでいく。どうしようかと困ったがオレもツバサのあとをついていくことにした。



「エテールはどこに行ったんだか……」

「……ひどく荒らされてる。オレが始めに起きた部屋とは到底――、!」



部屋の奥。真っ直ぐに立ったベッドの後ろで今なにか動いた。医務室をこんなにも荒らした現況が潜んでいるというのか!?
オレはすぐにツバサの前に立ち、拳銃を抜いた。しかし、その拳銃をツバサが手で下ろす。オレの横をツバサが通りすぎて前に立ち、人影に歩み寄った。



「ソラ、ミントだよ」



人影の正体はミントだった。彼女は手のみならず、背中に壁と同じ深い傷を負い、左肩には獣に噛まれたような跡がある。あちこちから出血していて、明らかにこれは重傷だった。



「ツバ、サさん……、今、ラカールさんが……! 私のことはいい、ので、ラカールさんを。チトセさんが追っています。……早く……」



ミントは切れ切れにそれだけいうと意識を失った。ツバサは彼女を横抱きにする。オレはすぐに比較的綺麗なベッドにミントが寝られるように木屑やらを退けて、他のベッドから布団を持ってきてそれを敷く。ミントをそこに寝かせながら、ツバサの指示は早かった。



「リカ、ウノを呼んできて」

「了解した」

「ソラはミントの身体を見て。怪我の把握を頼む。擦り傷一つ見逃さないでよ」

「了解」

「……もしもし、アイ。仕事が入った。そっちはシドレたちに任せて、至急ラカールとチトセを捜して。……そう、建物には居ない。連れ去られた」



ツバサはリカとオレに指示を出すとすぐに携帯電話を取り出して敵の追跡をさせる。

オレはツバサの指示通りミントの怪我の確認をはじめた。美紀にやられた怪我はそのままだった。こちらに来たあとすぐに襲撃されたのだろう。あとは左肩と背中に目立った傷がある。ミントと上着と靴、靴下を脱がす。軽傷はあちこちにあって、数えきれないほどだった。



「ソラ、ミントの具合は?」

「大きな傷口が三ヶ所。軽傷は数えきれない」

「骨は?」

「大丈夫。……でも体が妙に熱い。毒が入ってるかもしれない」

「なるほど」



ツバサはそう言い、オレに携帯を任せて迷いなくミントの傷口に手をかざしていった。一瞬にしてあの大怪我も軽傷も次々に治していく。ミルミでさえ治すのに時間のかかる傷をいとも簡単に治癒させてしまった。