書斎



「ソラ、もしかしてツバサに用事か?だったら少し待ってほしい。見た通り、ツバサは仕事中だ」



オレがツバサに目を向ければ、ツバサは「ごめん」とジェスチャーをする。
こうして仕事をしている姿のツバサを見るとなんだかボスらしいような気がする。いや、姿そのものは友人と話している様にも見える。話している言葉か。オレにはよく分からない用語だ。



「サクラは先に書斎で準備をしてきてくれ」

「わかった」

「準備?」

「ソラはミントの代わりに報告をしに来たんだろう? ルイトから報告は受けているぞ」



なんと。
オレはまだここに来てから一度もミントのことや報告するということは言っていない。ルイトに話したのもそれほど時間が経っていないというのに。なるほど……諜報部……恐るべし。
準備をしてくるそうで、余計なことをしゃべらない無口無表情のサクラは先に廊下を進んでしまった。残されたリカはツバサの電話が終わるのを待つ。やがてツバサが携帯電話をしまうと何事もなかったように二人が進みだしたのでオレはあわてて二人の後ろについていった。



「しかし無事のようで何よりだ。ミントはよく仕事場に駆り出されているが一応非戦闘員なんだ。ミントが怪我をする覚悟はあったが、まさか記憶が定かではないソラはほとんど怪我をしていないようにみえる」

「みんな心配してたんだよ。……みんなってのはソラが所属してる暗殺部のことね。報告が終わったらウノに顔を見せてあげなよ。きっと泣いて喜ぶよ」

「そうする」



会話にツバサが加わり、味気ない真っ黒な廊下を進んでいく。
ここ、すれ違う人がいないのだが何階なのだろう。オレがルイトに案内されていたところは誰かとすれ違うことがあったのだが。

歩いていくとすぐ目的地についたらしく、リカがドアを開けてツバサを招き入れた。それからオレを促したので中に入る。途端に紙の匂いが鼻を突いた。そして視界にたくさんの本、本、本。部屋は広く、天井は非常に高い。左右の壁には本がずらりと並んでいる。天井まで10メートルもありそうなのに、それを本が埋め尽くしているのだ。途中にはしごがかけてあり、また、階段があって、擬似的な二階に行くことができる。入って正面には壁ではなく窓が張られている。もしくはガラスの壁と言うべきかもしれない。外の風景をバッグに、社長室にありそうな高級感溢れる落ち着いた色をした木製の机と、黒いクッションのついた長椅子。あのクッションはきっと、柔らかいんだろうな、なんてどうでもいいことを思う。きっとあれはツバサのものだろう。ツバサの机の斜め左右前に似たような机が二つ。あれはボス補佐のリカとサクラのものだろう。部屋の中央には来訪者用のものと思われるテーブルとソファ。オレはそこへ行くように促されたのでそれにしたがう。