多重能力者



激痛はなんとか平然を装うことができるほど緩和された。オレの銃口が美紀に向く。美紀は対抗しようとしたが光也に押し付けられてしまった。



「今回は帰ろう」



光也は美紀を抑制した。「文句は帰ってからするわ」と美紀は渋々了承する。明との交渉があったおかげだろう。交渉のことはシングたちも知っているようだ。明が異能を使ったのか、遠くから見ていた美紀が伝えたのかは定かではないが、それによって明と光也は戦闘を行おうとしない。

光也が召喚術を使って転移し、明と美紀と光也の三人はその場から消えてしまった。
そうしてからやっと緊張が解れて、シングは一息ついた。そしてすぐにミントを心配し、そしてオレの背中に刺さったままだった針を抜いてくれる。



「今のソラにとってこれは初陣になるか? お疲れさま」

「どうも。それよりミントは大丈夫なの?」

「猛毒を撃ち込まれたわけではないので大丈夫ですよ」

「ならいいけど……」



オレの問いにミルミが答える。すっかり弱ってしまったミントにテレポートをしろ、というのも酷な話だ。オレたちは一体どうやって帰るのだろう。徒歩だろうか。しかしミントを早く診たほうがいいのでは……。



「ソラ、かけてみるか?」

「?」



シングはこちらに携帯電話を向ける。画面には「発信中」と書かれており、オレはゆっくりそれを受けとる。耳に当てて、相手が出るのを待った。しかしそれほど待つ時間はなく、すぐに知った声が耳に飛び込んできた。



『シング!! ソラは無事か!?』



イヤホン野郎だ……。ルイトだ……。
開口一番にそれはないだろう。どれだけオレを心配しているんだか。



「もしもし。オレ。ソラ」

『お、おう。ソラか。怪我してないか? 大丈夫か?』

「平気。それよりもミントが怪我をして……」

『ミントが? あの能力で怪我するなんて珍しいな。帰れないのか?』

「うん」

『わかった。こっちでなんとかする。そこで待ってろ』

「了解」



ルイトは少し間を置いてから『またな』と言って通話を切った。携帯電話をシングに返して、オレとシングでミントの様子をみることになった。



「ソラはいいのか? 背中に刺さっていただろう」

「別にミントほどじゃないよ。浅いし、大丈夫」

「無理はするなよ」



少し、コートに血が滲んでいる程度だろう。問題ない。
ミントに手をかざして怪我を治すミルミの回復能力は、ミントの血を止めてはいるものの、傷を治すことは出来ていない。やはりツバサのように瞬時に治せないようだ。いや、ボスである時点で、ツバサのほうが回復に特化しすぎなのかもしれない。